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マツダ CX-30 の美の表現、クルマが景観の「様式」を演出する…デザインタッチに出展
マツダは10月18日から27日まで、東京ミッドタウン(東京都港区)にて開催されているデザインタッチに出展。8回目となる今回は“ART OF LIGHT~reflection~”をテーマに『CX-30』を展示。そのディレクションを行ったビジュアルデザインスタジオWOWチーフクリエイティブディレクターの於保浩介氏とマツダ常務執行役員の前田育男氏のトークセッションが開催された。
今年のマツダは、ブースを彩る光のアートをビジュアルデザインスタジオWOWチーフクリエイティブディレクターの於保浩介氏のディレクションのもと、マツダと共同で制作した映像を、マツダCX-30をスクリーンとして放映。様々な光がボディに流れるリフレクションの美しさを見ることができる。「綿密にデザインされた空間で、お客様にCX-30を体感してもらうことで所有する喜びをより濃くイメージしてもらいたい」と関係者はコメントする。
◆プロに全力投球してほしいので具体的オーダーはしない
さて、今回のトークショーではマツダデザインがWOWとコラボレーションするに至った経緯や、於保氏と前田氏のデザインやアートに対する共通の考え方などが紹介された。マツダとWOWとの協業は2016年のオートモビルカウンシルから始まったという。
於保:この時は建築家からの紹介でした。彼がこの空間を作っている時にビジュアルを入れたいという話から始まったのです。最初の打ち合わせから前田さんとお会いしましたが、割と違和感なく仕事に入れたように思います。それはお互いの持っている感覚がすごく近いというものでしたね。
前田:おそらく目指しているところが結構近くて。また我々はクルマのリフレクションに世界一気を使いますから、光のアーティストと早く会いたかったという思いもありましたので、最初から上手くリンクしたのだと思います。
於保:その時に具体的なオーダーがなかったような記憶があります。我々からこんなのはどうかというイメージをすんなり受け入れてもらえて少しびっくりしました。
前田:我々はこの領域ではアマチュアなので、まずはプロの人に全力投球してほしいという思いでした。あまり色々な注文は出さないで、アーティストを信頼して、まずやってみてほしいとお願いした記憶がありますね。
於保:この時はクルマを作る映像作品というよりは、空間を作るという感じで行いました。映像とクルマを一体化させるような媒介になればいいという感覚でやらせてもらいました。
◆研ぎ澄ませるとシンプルになる
前田:我々は、クルマのデザインにも動きのある表現をしたいとずっと思っています。クルマが走っている時は光も動くし、クルマもダイナミックに動いて見えるのですが、止まった環境では、どうしても周りで動いてくれるものがないとダイナミックに見えにくいものです。そこで今回は、環境自体に動きを与えてほしいというお願いをしました。
於保:止まっているクルマにどうやって躍動感を出すかを考えると、単に景色を映り込ませればいいという短絡的なことではありません。クルマ自体がアートやそれに匹敵するものであれば、そこに映し込むものもそれなりに考えて研ぎ澄ませていかなければなりません。やっていくうえでわかったのは、情報量をすごくコントロールして、ちゃんと研ぎ澄ませた状態ほど、どんどんシンプルになっていくということでした。そのうえでどれだけ躍動感を出せるかが、僕らの仕事なんだと思っています。
前田:例えばオートモビルカウンシルの環境では、『ロードスター』というクルマがあって、背景に光の動きがありました。全体を俯瞰した時に光の動きだけが目に入って、クルマが沈んでも駄目。光の動きがクルマに対して何のプラスにもならなければそれも駄目。つまりプラス過ぎてもマイナス過ぎても駄目なので、その頃合いが難しいのです。
於保:すごく難しい注文をしますよね(笑)。でもこれは正解のないことですからお互いの感覚が合わないといつまで経っても終わらないものです。しかし、割とすぐに気に入ってもらえたようでした。
前田:その後、カウンシルのものを拡大して50mぐらいの巨大なスクリーンにこの動画を映したイベントを行いました。これだけのサイズですから足し引きのバランスが上手くいっていないと、ノイズにしか見えなくてうるさくなったでしょう。そこで今回もインスタレーションはそういった思想で作られているのかなと思います。
◆自然の光の映り込みには敵わない
於保:今回も考え方は何も変わっていません。映し込むことを前提に最初から考えて作っています。いかにこのボディの美しさを際立たせるかが全てでした。
今回工夫したのはこの限られたスペースと、限られた予算(笑)を有効に使うために、頭を使ったことでしょう。パネルがたくさんあればいいかというとそうではなく、ハーフミラーなどを使っているのも、映像がガラスやミラーに反射して、さらにそれがクルマに映ったり。そして映ったクルマがまたミラーに映るなど乱反射の繰り返し。その結果、シミュレーションだけでは想像できない空間ができたらいいなとデザインしました。
自然の光の映り込みは究極です。僕らは色々な技術を使って表現してもこれは出せません。この自然の光が究極で一番上段にあるとしたら、それとは違うベクトルで僕らもやらなければいけないのです。あえてこの自然の光の映り込みを再現しようとすると絶対に安っぽくなってしまいます。そこでそれとは違うベクトルで、皆が気づかなかった視点や、思いもつかなかったことなど、そういう色々な角度から攻めて、今回のような映像に行き着きました。自然のものとは一線を画して、これが僕らなりの一番面白いフリクションです。特にこのミッドタウンの環境下では、来場した皆さんが“なんだなんだ”と寄ってくるようなものになるでしょう。
前田:それにしても今回はとても難しかったですね。この場所でクルマのリフレクションを綺麗に見せてもらいたいというお願いと同時に、遠方から見た時に何かやっているなとわくわくするような雰囲気を作ってもらいたいというお願いをしたからです。
於保:本来であれば1/1スケールでLEDパネルや鏡を立てて、どうすると一番映り込みが綺麗かを検証したいところです。しかし、限られた資源では難しいので、そこで精巧な『RX-VISION』のミニチュアカーを貸してもらって、映り込みを擬似的に作り出しました。
我々はデジタルな会社ですが、かなりアナログな作業をやっていまの姿に落ち着きました。いくら3Dでシミュレーションをしても、自然の映り込みの美しさや、実際に置いた時にどのように映像が映り込むのか、どういう効果があるかは半分もわからないのです。しかし、フィジカルなミニチュアを使うことによって、その半分くらいはこれはいけるぞという確信が持てました。普段やらないことですが、すごくやって良かったと思っています。
前田:最初に於保さんからミニカーはないですかと聞かれた時に何をするのかと(笑)。デジタルアーティストの彼ですから、何でもデジタルでこなせると信じていたし、こんなフィジカルなモデルでシミュレーションをするなんて夢にも思ってもいませんでした。こういったものを作って自分の目で確認していくという作業をやるのですね。これが我々のクルマ作りと近いという印象がありました。
ただ、このミニカーは非常に背の低いクルマで、実際に置くクルマは背の高いクルマですのでちょっと誤算もありましたね。
於保:会場でクルマがもう少しこっちだとか角度はこうだとか、シミュレーションをした結果を踏まえて夜中に動かしながらいまの位置を決めていきました。
前田:結構ベタな作業をやるんだなぁと(笑)。しかも開催2日前の夜中の3時ぐらいにあと5cmクルマの方とか延々とやってもらって。適当にパラパラと鏡などが立っているわけではなく、その角度と見る方向、クルマの反射など何度もシミュレーションしてもらってこの状態が出来上がっています。現場での調整が想定以上に大変でした。
◆デザインのジャッジは“勘”
於保:クルマは究極のマスプロダクトだと思っているのですが、そのデザインの最終的なジャッジを下す時にどういう基準で、何を持ってよしこれでOKと決めているのでしょうか。
前田:簡単に聞きますね、究極の質問を(笑)。1車種で年間10万台から20万台という販売台数になり、世界中にそれだけの台数が出ていくという責任と、投資は1車種を開発するのに数百億円かかるので、デザインのジャッジは実はとても重たいのです。が、ほぼジャッジは直感でやっています。お前の勘だけかよと皆さん不審に思うかもしれませんが、勘で評価できるよう、ジャッジできるようにきちんと戦略を組み上げていることがすごく重要なのです。
1台1台単発で良いとか悪いとかをやっていると絶対にそれは無理なので、マツダというブランドの方向性を決めて、そのデザイン戦略を立て、それをどう表現していくかを、VISIONモデルを何台か作って検証もして。そしてこの方向性でこのパッケージに合わせた、こういうクルマだからこんなデザインだよねと、自分の中でどんどんイメージを作っていくのです。
それで最終的に出来上がった時にこれでいけるかどうかというハードルを自分で作っていく。クルマによってそのハードルの高さは違っていて、すごく低いものもあればものすごく高いものもある。そして色々な状況や条件の中、右脳と左脳が喧嘩するような時期が長くあり、直感を研ぎ澄ますために左脳を使って、最後は右脳だけで判断しています。
最後は勘しかありません。正直、ロジックはないし正解もよくわかりません。ですが、これでいこう、これで大丈夫と皆を説得する、結構辛い職業なのですよ。
例えばクルマの性能は何馬力でトルクがいくつなど数字に置き換えられるケースが多いので、ジャッジはその数字が満足できるかどうかですが、デザインは全く数字に置き換えることができませんから、結果、信頼関係になりますね。この人の能力はこのレベルだというのがわかると、100%任せようとか、50%は介入しようなど。最後は信用できるかどうかだと思います。
それから自分のハードルの高さを自分で決めないといけないので、それをどこに持ってくるかという努力はします。それは考え抜くしかないのです。あとは色々な刺激を受けてそれを自分のハードルに置き換えていくという作業を延々と行っていく。最後は直感といっていますが、直感が出来上がるまでのブロックを積んでいく作業は何年も何年もやっている感じですね。
◆日本のカーデザイナーは街の景観にもっと責任を持つ必要がある
於保:前田さんの印象的な言葉として、クルマは街を走るもの、特に数がたくさん走るクルマに関してはデザインに社会的責任があると話され、まさにそうだと思っています。街の景色は色々な要素でできていて、クルマもその大きな要素のひとつです。建物ももちろんそうですが、クルマが美しくないと街の景色が残念なことになってしまいます。
ヨーロッパのクルマは絶対にそのことを意識していて、街で走っている姿をすごく想像して作られているなと、ヨーロッパに行くたびにすごく思うのです。お世辞ではないですが、マツダのクルマを見るとちょっとそう思うことがあります。日本のほかのメーカーが駄目ということではなくて、どのくらい意識して作っているのかなと感じるのですが。
前田:僕を含めて日本のカーデザイナーはこの責任をもう少し感じる必要があると思っています。最近都内は色とか様式とかだいぶ整ってきたなという感じはしますが、地方に行くと様式レスです。ありとあらゆる色があって看板が立っていて、色の範囲も全くコントロールされていない、ある意味悲惨で混沌とした状態です。
クルマは日本の環境を構成する大きな要素のひとつとなっていますが、さらに様式を壊すようなことが起こっています。これは世界的レベルで見ても相当やばい状況です。環境全体の様式がきちんと整ったヨーロッパの街並みのようにするのは簡単ではありません。しかしやっていかないと、今のままではおそらく様式の管理に関しては新興国にも越されてしまうぐらいの状況になっていくでしょう。もともと美しい景色の日本のはずなのに、地方に行くとちっとも綺麗ではない。そういったところも我々の責任のひとつかなと最近思うようになりました。
於保:これはクルマだけではなく、僕らが関わるあらゆるデザインされているものに関していえることで、実は2020年の東京オリンピックで一番期待していたのは街並みがもっと綺麗になるのではないかということだったのですが、ならなかった。ただ新しくなったという印象でしかないですね。計画的に何らかの価値観を持って作られているとはとても思えない。ですから、ささやかでも今回のような空間を作ったりしているところだけは、変なノイズにならないようにしたいなとは思っています。
前田:環境の整備といってしまうとあまりにも話が大きくて、結果行政が動かないとどうしようもないということになるのですが、ただそうはいっても色々な積み上げによって少しでも変えることはできて、その中で於保さんも私も責任を負っているのです。何かを始めないと将来絶対によくなることはないし、今後100年200年経っても同じという状況になるので、いまがターニングポイントだと思っています。誰かが何かを始めないといけないという危機感を最近持つようになりました。