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アマゾンの自動運転カーコンテストで機械学習チャレンジ…AWS DeepRacer
アマゾンウェブサービスジャパンが開催中のAWS Summit Tokyo(12~14日、幕張メッセ)において、自動運転カーのタイムトライアル競技AWS DeepRacerが行われた。
AWS=アマゾンウェブサービスはアマゾンが提供するパブリッククラウドサービスの名称。自動運転カーといっても実車ではなく、ラジコンカーをベースとした車両を利用した、ロボコンのような競技だ。あらかじめ学習済みのAIモデルを会場の競技車両にロードし、規定のコースでタイムを競う。
アマゾンは、自社のクラウドをビジネスから研究まで幅広く使ってもらうべく、AWS Summitのようなエキシビジョンやカンファレンスを世界中で展開しており、機械学習などAI分野でのクラウド利用を支援する意味もあり、このAWS DeepRacerを運営している。
車両は、1/18スケールの、4WDモンスタートラックを模した電動モデルカー。4メガピクセルのカメラを1台搭載し、インテルARMプロセッサが学習済みのAIモデルを実行する。センサーはカメラのみで、LiDARや超音波センサーなどは利用しない。モーターのスタート/ストップにタブレットのアプリを利用するので、Wi-Fi機能は搭載しているが、走行制御はスタンドアローンで本体にロードされたAIモデルのみが行う。
その他の仕様として、OSはUbuntuというLinuxにOpenVINOというツールキット、ROS Kineticが、車両の速度や舵角を制御する。AIからは直接操作できないが、半導体の加速度センサーとジャイロセンサーを搭載し、車両の向きやおおよその位置などの情報も取得できる。AI部分は、GoogleのTensorflowをベースとした強化学習のエンジン。
なお、AIや自動運転というと、CPUではなくGPU、インテルではなくNVIDIAではないのか、と思うかもしれない(自動車業界にはこの誤解が広がっている)。GPUが向いているのはおもにディープラーニングの学習フェーズの計算処理だ。学習済みのAIモデルの実行は、一般的なプロセッサでとくに問題はない。
強化学習エンジンに、カメラやセンサーからの情報を入力パラメータとして評価関数を与える。例えば、カメラ画像でセンターラインがどれくらいズレているかで報酬(数値)を調整する。タイムトライアルなので、スピードが高いほどやはり報酬を与える。報酬の値は評価関数を工夫して、コースをクリアできる設定を考える。
つまり、このパラメータ調整と評価関数が自動運転の性能・精度を決める、重要な要素となる。もちろん、教科学習なので実際にコースを走らせて報酬がより高くなるように学習させることも必要だ。学習は、主にアマゾンが用意するDeepRacerのシミュレーター環境で行う。各自が工夫したAIモデルを、AWSのサーバー上のシミュレーターで学習(バーチャルトレーニング)させる。
レース参加者は、学習済みのAIモデルをUSBなどで持ち込み、会場の競技車両にロードする。競技は、4分間の持ち時間のうち、完走した最速タイムで競う。コースアウト(4輪が車線を外れた場合)すると、マーシャルが逸脱地点に車両を戻して再スタートするが、当然ラップタイムは遅くなるので、再スタートが入れば、上位争いはできないタイムとなる。また、コースアウトは3回までというルールもある。
現在、ワールドレコードは7秒台とのことだ。
DeepRacerはリーグ形式をとっており、原則として、アマゾンのAWSアカウントがあれば、各国で開催されるAWS Summitの会場に任意に参加できる。車両は、会場に用意されたものしか使えないので、ハードウェアを購入する必要はない。各会場の優勝者やバーチャルレースのポイント上位者は、年末にラスベガスで開催されるチャンピオンリーグに招待(最寄り空港からのエアチケットや宿泊代の負担なし)参加できる。
冒頭に述べたようにDeepRacerは、詳細なレギュレーションに則って行われる競技であると同時に、クラウドでのAI開発、学習利用を促す目的もある。そのため、手ぶらで訪れていきなり競技に参加することもできる。この場合、主催者からもっとも基本的なモデルを組み込んだAIモデルを支給してくれる。そのままではタイムは期待できないが、会場にはDeepRacerのワークショップも併設され、AIモデル開発環境の座学とハンズオンも受けられる。その後、自分でパラメータや評価関数を調整して何度も参加できる。
取材させてもらった女性の参加者は、上司に促されてエントリーしたという。最初は主催者支給のモデルで挑戦したが、このあと自分でチューニングを行い翌日以降も挑戦するそうだ。