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アウディのEV「e-tron」のグリルはなぜグレーになったのか?【千葉匠の独断デザイン】
◆e-tronのグリルはなぜグレーになったのか?
1年前のジュネーブショーでアウディは、まだカモフラージュのラッピングが施された姿ながら、同社初の量産バッテリーEVとなる『e-tron』のプロトタイプを展示した。9月にはそれをサンフランシスコで正式発表。さらに11月のロサンゼルスショーでは4ドアスポーツの『e-tron GT Concept』、今回のジュネーブではSUVの『Q4 e-tron Concept』と、バッテリーEVのコンセプトカーを相次いで披露するなど、電動化への強い意欲を示し続けている。
そんな大きなうねりのなかで、いささか仔細な話題で恐縮なのだが、デザイナーにどうしても聞いておきたいのが「e-tronのグリルはなぜグレーになったのか?」ということ。2年前のジュネーブで、アウディ・デザインを率いるマルク・リヒテが「e-tronはボディ共色のグリルにする」と語っていたからだ。
将来的にバッテリーEVが主流になるとしても、当面はハイブリッドを含む内燃機関車との共存が続く。バッテリーEVと内燃機関車のデザインを、どう差異化すべきか? 同じブランドで両者を共存させるなら、フォルム全体のデザイン言語は共通にしておかないとブランド・アイデンティティを損ねてしまう。グリルの色で差異化するというアウディのアイデアは、巧い解決策だと思っていたのだが…。
◆ボディカラーのグリルにネガティブな反応も
幸いにして今回のジュネーブでもマルク・リヒテに会うことができた。「e-tron GTとQ4 e-tronはボディカラーのグリル。我々は2段階でそれを進めることにしたのだ」とリヒテ。e-tronは第1段階という位置付けだ。その理由を、彼はこう説明した。
「生産を始める2年前に、e-tronのデザインを顧客に見せるクリニックを行なった。彼らはボディカラーのグリルに少しショックを覚えたようで、ネガティブな反応が出た」
e-tronの生産開始は18年9月だから、クリニックは16年の夏か秋。その半年後=17年3月のジュネーブでリヒテは自信たっぷりにボディ共色のグリルを語っていたし、翌4月に上海ショーで発表した『e-tron Sportback Concept』のグリルはボディと同じシルバーだった。クリニックを踏まえた議論が長く続いたことは想像に難くない。
そしてリヒテは、e-tronでは妥協する代わりに(とはいえグリルの色を従来の黒ではなくグレーにしながら)、第2段階で彼の思いを実現させる決断を下したのだ。「e-tron以外のすべてのe-tronファミリーはボディカラーのシングルフレームグリルになる」と、リヒテは語気を強めた。
◆Q4 e-tronの“答え”は次のジュネーブで
Q4 e-tron Conceptのグリルは写真ではシルバーに見えるかもしれないが、実際にはボディカラーのフィンにアルミ加飾をインサートしたもの。リヒテによれば、「量産のQ4 e-tronにはいくつかのトリムレベルがあり、上級仕様はコンセプトカーと同じようにボディカラーとアルミを組み合わせ、ベース仕様はボディカラーだけになる。e-tron GTはスポーツカーだから、グリルは常にボディカラーだ」とのことだ。
ちなみにQ4 e-tronは来年末までに量産型がデビューすると発表されている。e-tron GTについては、インタビューに同席していた広報担当者から「2年後にまたジュネーブに来れば、量産モデルを見られますよ」との言葉を得た。
今回のジュネーブに展示されたQ4 e-tronとe-tron GTはまだコンセプトカーとしての出品だが、リヒテは「どちらも量産車のデザインとほとんど同じだ」と告げた後、隣の広報担当者に「これは話してよかったんだっけ?」。まぁ、聞いてしまったからには、書かせていただきますけど…。
千葉匠|デザインジャーナリスト
デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。