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【スズキ フロンクス】デザインの肝は「市場での存在感」、スズキの小型車を変える内外装とは
スズキは2024年秋ごろに、日本国内での発売を予定している新型コンパクトSUV『フロンクス』に関する最新情報を解禁。これに合わせ、実車を一部メディアに公開した。
開発責任者曰く、「もともとこのクルマはスタイリングを大切に、SUVとクーペ調の融合をいかにバランス取りながら進めた」と述べるスズキフロンクスのデザイン。そのポイントについて内外装デザイナーに話を聞いた。
◆存在感を放つためのクーペスタイル
フロンクスのデザインコンセプトは“SUVの力強さと流麗なクーペスタイル”というものだ。スズキ商品企画本部四輪デザイン部エクステリア課長の前田貴司さんは、「ベースはBセグメントのハッチバック、『バレーノ』で、そのクルマのリソースを生かして、市場でより広く受け入れられているSUV仕立てのものをどうやって作ろうか。それが開発の入り口です」という。
テールゲートをより立てることで室内空間を訴求する案などを含めて開発を進めていったが、「思い切ってテールゲートを倒したクーペスタイルすれば、際立ったシルエットのSUVが市場にあふれるなかで存在感を主張できるのではないかと現行案に行きつきました」と話す。
そのコンセプトをもとに力強さ、上質さ、洗練をキーワードにデザインしていった。これはエクステリアだけではなくてインテリアやCMF全てに共通する。上質さや洗練さはSUVよりもクーペで使われるワードのような気がする。前田さんは、「スズキの中でフロンクスの位置づけは、『スイフト』よりもダウンサイザーを見込んでいますし、ご夫婦二人だけでクルマを使う家庭、そしてクルマにこだわりのある方に向けた商品です。スイフトとの距離感を踏まえると、作り込みの部分で上質感が大きなキーワードになっています」と述べる。
その上でSUVの要素は、「スタンスの部分、足回りをしっかりと見せました。それがSUVの肝になる。ただし悪路を駆け抜けるというより、スタンスのしっかり感を表現するというのがフロンクスの特徴です」と前田さん。まさにスポーツユーティリティビークル=SUVなのだ。
◆インドと日本では見え方が違う
フロンクスのエクステリアはいくつかのキャラクターラインがキーとなっている。その点について前田さんはインドと日本の両方で開発したことが背景にあるという。
「日本で開発したモデルをインドで見ると、クルマの見え方がかなり違うんです。例えば日本で十分だと思った造形が向こうだと割と淡白に見えたり、乾いた砂漠みたいな大地の中ではぬるっとした湿り気のあるデザインがすごく際立って見えたりするんです。今回は自動車があふれている中で存在感を出して際立つことが大事なので、パッと見ただけで目に飛び込んでくるようなものを常に意識しました」と、キャラクターラインが生む陰影と、面構成による独特な個性を重視したことを強調する。
さらに、フロントフェンダーにもうひとつフェンダーがあるような“ダブルフェンダー” が大きな特徴だ。
「できるだけSUV感を出すためには、ボディを厚くしてキャビンを薄く見せたいんですが、何も処理をしないままだと、どうしてもタイヤに対してボディが重くて、鈍重な印象になってしまう。そこで前後に芯を通す(前後のドアハンドルあたりを通る強い背骨のような軸)とともに、タイヤを掴む動感を表現するためにフロントのヘッドランプの塊とリンクさせて、最初にタイヤに目が行くように考えました」
またこのダブルフェンダーはフロントの表情にも大きく影響している。まるで左右からフロントフェイスを守るような印象とともに幅広感も演出しているのだ。それは前田さんも認めるところで、「クーペスタイルの流麗なシルエットでありながら、フロントの下側のフェンダーの部分はまっすぐ箱っぽく(後ろに)抜けていくことで幅広く、スタンスよく見せていますし、こういった部分でSUVの要素のひとつ、プロテクト感もお客様に響くのでは」と話す。
全体的に比較的、線が多いデザインだが、前田さんは「あえて線がキーになるような造形にすることで、近づいた時に造形の密度感を出すことができます。柔らかい面を感じてもらうために、ちょっと引き締める部分も必要なので、シャープさと滑らかさの緩急を、線を用いて表現しました。このように線を選択したのは理に適っていると思っています」とその目的を教えてくれた。
フロントグリルにも大きなこだわりがあった。日本仕様ではエマージェンシーブレーキが装備されるため、ここにレーダーが入る。そうするとペイントしたグリルが使えないのだという。そこでフロンクスでは材着の黒艶樹脂、バイオエンジニアリングプラスチックの“デュラビオ”を使用。質感向上とともに、「深い造形では塗装の粒子が入っていかないことが問題になってしっかりとした抑揚をつけられません。しかし、デュラビオを使うことでそういうことにもトライ出来ました」とコメントした。
◆シルバーの加飾と造形の妙
フロンクスのインテリアにはこのセグメント以上の上質感を覚える。その点についてスズキ商品企画本部四輪デザイン部インテリア課主任の遠藤拓磨さんは、「このサイズ、このクラスだと値段から想像されてどうしてもプラスチッキーに見えたり、部品数はそれほど増やせないなどの制約があります。そのなかでいかに高く立派に見えるかを工夫しながらデザインしました」という。
「程よい普通のコンパクトハッチのように見えつつも、より強さを表現したかった。そうしながらも、ワンランク上の上質感や、クーペシルエットによる少しスポーティーさ、色気のような大人っぽさを表現したかったのです」
シルバーの加飾も特徴的だ。「フロンクスでは力強い金属フレームをイメージしました。たださすがに金属を削るわけにはいきません。そこで高輝度シルバーの塗装と造形で金属を切削したようなイメージを持たせることで、しっかりと作り込まれたクルマに見せるようにしています。この高輝度のシルバーと造形が相まってすごくいいクルマに感じてもらえたり、パールブラック塗装のパーツを組み合わせることによって、さらに都会的で精緻感が表現されています」と説明する。
またインテリアはツートーンで仕上げた。「インテリアでツートーンを表現する場合、一昔前はインパネの下半身を全部サッと塗ることが多かったのですが、近年は真ん中の部分に配色を施すとちょうどいいツートーン感が出ます。そうしながら色と形、それらの組み合わせ大事にして仕上げました」と遠藤さん。
◆「スズキの小型車のイメージが変わる」シート
シートに座って周りを見渡すと、運転席と助手席のゾーニングがかなり明確にされていると感じる。その理由について遠藤さんは、「フロンクスはセンターを中心にシンメトリーなデザインになっていますが、スポーティーさというとドライバーオリエンテッドで左右非対称の形がまさに定番として挙げられますよね。でもそうするとセンターシンボリックができなくなってしまう。そこでアッパーのフードを上から見てクランク状して、メーターバイザーまで動いているような形にすればドライバーオリエンテッドで自分のパーソナルスペースがゾーニングできるかなと思いました」。その結果として、「座った時の風景は左と右でちょっと違うでしょう」とそう感じた理由を説明。
シートも新規で作られたもので、「縫製ラインが立体が見えやすく、ハーフレーザーの仕立てにもなっているので座り心地にもすごく自信があります」と語る。そして、「この新規のシートを見てスズキの小型車のイメージが変わると思いますので、ぜひ見て座ってもらいたいですね。初めて見る方はこれでスズキのイメージにちょっと驚いてスズキのファンになってもらいたい。現在お乗りのお客様もちょっと驚いてもらって、もっと好きになってもらいたい。スズキのインテリアのレベルがアップしたことをしっかり見てもらいたいですね」とのこと。
内外デザインでインドと日本仕様に違いはあるのだろうか。エクステリアはレーダーがフロントグリルに入るくらいの違いであるのに対し、インテリアはかなり差異がある。
「同じブラックとボルドーでも内装色の配色が違っています。ドアトリムの一部のアッパーのショルダーまでは黒ですが、インサイドハンドルがある面のところがボルドーという違いがあります」。また、インサイドハンドル周りの黒艶は、インドではゴールドっぽいシルバー。ドアトリム周りの部品をボルドーから黒に変えているのは、日本ではボルドーの量が多いと感じたため。このほか、日本仕様には電動パーキングブレーキや四駆があるため、センターコンソール後ろ側を作り直しているそうだ。