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【ホンダ フリード 新型】「開発者もターゲット層」だからこそ実現できた3列目シートと車内空間
ホンダは『フリード』をフルモデルチェンジし6月より発売する。コンパクトなサイズに3列シートを備え、主にファミリー層に向けた実用性を詰め込んだミニバンのフリードは、新型でもその“中身”にこだわり満載だ。インテリアデザイン、パッケージ、カラー、素材…新型ではどのように進化したのか。開発者に話を聞いた。
◆家族を見て実感した“こころによゆう”コンセプト
フリードのインテリアデザインを担当した、本田技術研究所 デザインセンター デザインインテリア担当の貝原孝史さんは、「自分には子供が二人いてまさに子育て期のパパですので、自分が欲しいクルマを作ればそのままお客様に響くのではないか。担当者としては打ってつけだと思いました」と担当が決まった時の気持ちを明かす。同時に「開発メンバーも同世代でしたので会話も合いますし、子育て中の苦労も共有しました」という。
貝原さんがこのフリードで実現したかったことは、“こころによゆう”というグランドコンセプトだった。開発時はコロナ禍ということもあり在宅ワークが多かった。そこで、「普段の妻の日常が垣間見られ、子育てで余裕がなかったり、ちょっとイライラしていたりというのが肌で感じられたのです。なのでクルマの移動の時間だけでもそういったストレスを減らすことができないか。そういう思いでデザインしましたので、使い勝手ではモノの収納の量もそうですが、そこへ手を伸ばしたときのアクセス性の良さや、隠せる収納などにも配慮しました」という。もちろんただ使いやすければいいだけではなく、「スタイリングは、見た目もよりスッキリ、シンプルに上質に、というところを意識しました」と述べる。
収納関連も含めて、先代からさらなる改善にも取り組んだ。
「収納の数はしっかり備えていましたが、使い心地というところまで深掘りすることが必要でした。また、先代はクランクを多用した、出っ張りなどの要素が多いデザインで、かつアウトホイール(ステアリングの上からメーターを見るタイプ)を採用していたこともあり、インパネの上面がボコボコしていて、視界を少し邪魔していました。そういうところをなるべくノイズなく見せるようなことを意識しています」
収納の具体例では、インパネの特徴的なトレイ形状が挙げられる。モノが落ちないように深さがありそこに壁(の返しなど)が設けられるのが普通だが、「その壁にモノが引っかかって取り難いことがあります。なるべく動作もスムーズにできないかということで、縁をつけずに傾斜の角度を吟味したりすることで、置きやすさ、取り出しやすさにこだわりました」と貝原さん。実際に設計部門とともに3Dプリンターでモノを作って現行車にその部分だけを取り付け、急ブレーキや急加速をおこなうなどの実験を繰り返したそうだ。
◆ママ目線が活きたシート表皮
また、本田技術研究所 デザインセンター デザインCMF担当の三輪あさぎさんは、「(収納は)サッと使えてサッと取り出せるコンセプトなので、艶の面とマットな面を組み合わせることで、結構雑多な扱いをしても、どちらに傷がついても目立ち難いシボにしています」とアピールする。
「汚れ」に関してもこだわりがある。「シート表皮ではいろんな色の糸を織り込むことで、どんな色の汚れがついても目立ち難い表皮を作っています。同時に撥水撥油機能も一番下のグレードから持たせました」と三輪さんは説明する。そのシートはちょうど真ん中あたりで色が変わっている。これはサイドウインドウ下端と揃えられている。
「女性のお客様や、私のママ友にも話を聞いたのですが、そこで声が多かったのが明るい内装に乗りたいんだけど、汚れが気になってどうしても買えない。だけど黒い内装は本当は嫌なんだということでした。ではそれを両立するにはどうしようかなと考えて、目線に近いところや、外から見たときに見える部分だけを明るくして、そこから下の汚れるところはグレーにするという色のゾーニングもしています」
家族のためのクルマならではの心配りといえるだろう。
◆明るく、使いやすい3列目の空間
開発責任者である安積悟さんが「3列目まできちんと座れるのがミニバン価値」とコメントしているように、コンパクトミニバンといえど「3列目シート」の使い勝手や居住空間に手は抜けない。
パッケージを担当した同デザインセンターデザインパッケージ担当の田中未来さんは、「フリードの歴史は初代『モビリオ』から始まっているので、そこから紐解いて、これまでのパッケージングがどうなっているか、いまのクルマで出来ていることと出来ていないことを実車を見ながら検討していきました」と話す。
出来ていたことは、「いろいろなライフステージに沿った形でシートのアレンジや、5人乗り、6人乗り、7人乗りと用意されていること。そしてちゃんとしたサイズ感の中で空間力を最大限に持っていること」これこそがフリードが持っている強みだという。
そして新型では3列目の「空間」に注力した。
田中さんは、「自分自身も先代を使っているのですが、(3列目を)跳ね上げる際に重さを感じることがありました。そこで操作性を見直そうとなったのです。また、自分が3列目に乗った時に感じた閉塞感も、エクステリアデザイン担当と相談しながらグラスエリアを大きくすることで解消しました。座った時の広さや景色、荷室としての進化がパッケージの大きな変化点です」とコメントした。
3列目シートの具体的な改良点は、シートそのものの軽量化に加え、跳ね上げのピボット位置を下げたこともポイントだ。
「跳ね上げる際に、上に向かって押し上げて、さらにルーフ側で引っ掛けるとなると手が届かないという方もいらっしゃいました。そこで何回もモデルで検証して、跳ね上げた位置の高さはどのくらいがいいんだろうかと、栃木の人間工学グループと一緒に操作性がどのくらい良くなったかを検証しながら、高さや重さを改良していきました」
またユーザーは、実際には3列目シートを跳ね上げたまま使用することも多いのだという。「そうするとリアクオーター(斜め後方の視界)を全部塞いだ形になり、運転席側から後ろを見ると暗くも感じましたし、閉塞感もあったんです」。跳ね上げ位置とウインドウグラフィックを変えたことで、車内空間を明るくすることもできた。
2列目シートでは、肩口やヘッドレスト形状も変更した。田中さんによると、「実は2列目のシートの座らせ方は基本的に先代と大きく変わってはいません。でも、見通しが良くなったので、前からの景色がたくさん視界に入ってくるので明るくも感じますし、それによって車内のコミュニケーションが取れるようなクルマになっていると思います」とのことだった。
◆思いやりが自然とできるパッケージ
新型のアピールポイントのひとつである「運転のしやすさ」にもパッケージングの改良が効いている。
パッケージ担当の田中さんは、「フリードは、特にクルマに強い趣味性をお持ちでない方が選ばれることが多いんです。そこでAピラーの位置がなんとなく自然と前輪の位置とつながっていることで車幅感覚がわかるとか、ベルトラインを真っ直ぐにしたことで駐車も真っ直ぐ、白線に合わせてしやすい、自然にガイドになってくれる、というところは作り込みました」という。
そんな田中さんが最も実現したかったのは「思いやりが自然とできるパッケージ」だった。
「自分の運転したときのドライバビリティや楽しさというよりも、後ろに乗っている子供が笑顔でいるかな、酔わずに乗れているかなとか、運転が不安なパートナーの方が運転していてストレスであったり、疲れにつながらないかなとか、誰かを思いやっているクルマということをすごく意識しました」
そうした小さな配慮を少しずつ積み上げて、乗員のストレスや不安、ちょっとした疲れなどをクルマ側がサポートできるようなクルマをめざした。
田中さんは、「数値に見えない細かい工夫をいろんなところで開発メンバーと一緒に話をしながらやっています。なので、ふと乗った時に、自然になんか心地いいなと思ってもらえる空間になっていたら、それが正解だったんじゃないかなと私も思っていますので、ぜひいろんな方に乗っていただきたいですね」と語っていた。
開発メンバーの多くがターゲットユーザーだったこともあり、本来の担当外のところまでこだわり、乗る人、その家族への思いをカタチにしたのが新型フリードといえる。まさに子育て世代の強い味方となってくれるはずだ。