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中国自動車業界における歴史的一歩! テインサスペンションの純正採用が実現
チューニングショックアブソーバーでおなじみのテインの製品が中国の鄭州日産汽車が製造するSUVモデルの『パラディン』に純正採用された。
テインは来年創業40周年を迎える老舗のチューニングショックアブソーバーメーカー。創業メンバーの専務取締役の藤本吉郎氏は、1995年のサファリラリーの優勝ドライバーである。本題に入る前に鄭州日産汽車とパラディンについて少し触れておく。
◆パラディンの特別仕様は先にテインありき
鄭州日産汽車は1993年に日本の日産自動車と中国資本の合弁によって設立された自動車メーカーで、商用モデルを中心にラインアップを展開している。パラディンは2002年に初代が登場。その後一時期ラインアップから外れていたが、およそ10年ぶりとなる2023年に新型が登場した。パラディンは2004年と2005年のダカールラリーに参戦、完走を果たしていることもあり、一部の中国のクロスカントリー車ファンからは絶大な支持を受けているとのこと。
昨年にフルモデルチェンジしたパラディンであったが、販売をより強化する目的で2024年4月に2種の特別仕様車を設定した。1つはクールバージョンと呼ばれるタイプで、電動サイドステップや大型液晶モニター、2トーンシートなどを備えるもの。もうひとつが20周年記念版というタイプで、こちらにテインのサスペンション(ショックアブソーバー&スプリングキット)が採用されている。テインのサスペンションが自動車メーカーの純正パーツとして採用されるのは初のことだ。この20周年記念車の話題性は絶大で、発表時は50台限定だったものが、その日の午後には200台限定と限定台数を4倍にアップするほどであった。
パラディンに20周年記念車を設定すると決めた鄭州日産汽車の田村和久氏(現・東風日産)は、企画当初からテインのサスペンション採用を考えており、テインのサスペンションありきで20周年記念車を構想。テインのサスペンションが使えなければこの企画は成立しないと決めていた。
◆ハイドロ・リバウンド・ストッパーを開発
しかし、20周年記念車の企画がスタートしたのは2023年10月のこと。発売までわずか6カ月でテインはパラディン用のサスペンションを開発したのである。
しかも、従来の構造をそのまま使うのではなく、ハイドロ・リバウンド・ストッパーという新たな機構を組み込んだ「4×4ダンパー グラベル2」と呼ばれるモデルが採用された。「4×4ダンパー グラベル2」は56パイの大径ピストンを採用した単筒タイプ。ピストンロッドは22パイの高剛性タイプ、伸び側と縮み側の減衰力をそれぞれ独立して調整可能。オイル容量を稼ぐために別タンク方式を採用。本体と別タンクは太い高圧ステンメッシュホースで連結される。
すでにテインはハイドロ・バンプ・ストッパーという機構を開発済みで多くのショックアブソーバーにこれを採用してきた。ハイドロ・バンプ・ストッパーはショックアブソーバーが縮む際の最終段階、つまり縮みきる寸前で減衰力が急激に立ち上がる機構で、底付きせずに力強く減衰する特性を持っている。ハイドロ・リバウンド・ストッパーはこの逆で、ショックアブソーバーが伸びきる寸前で減衰力が急上昇する機構である。
パラディンはモノコックボディではなく、フレーム式のシャシを採用するモデル。フレーム式の場合、バンプ側はフレームで受け止めるため、ハイドロ・バンプ・ストッパーを使う必要がなく、新たにハイドロ・リバウンド・ストッパー式を開発したとのことだ。つまり、縮み側はフレームのバンプストッパーが役目を果たし、伸び側はハイドロ・リバウンド・ストッパーが働く。
◆オフロードコースで試乗
このパラディン20周年記念車は4月16日に中国鄭州にて発表された。筆者は鄭州で行われた試乗会に参加した。中国で一般道を運転するには中国政府が発行する運転免許証が必要なため試乗は一般道ではなく、オフロードコースを使って行われた。
まず、機能面ではノーマル状態であるクールバージョンを試乗。パラディンの基本性能を探る。168kW(228馬力)/380Nmのガソリンエンジンは低速トルクもしっかりとあり扱いやすい。このエンジンは三菱製にルーツを持つもので、樹脂のヘッドカバーには“GDI”の文字が見てとれる。
標準状態のパラディンもオフロードで十分に走る足まわりを有している。モーグルでのタイヤの追従性もよく、スポーティに走らせた際の安定性も高い。急勾配の上り坂でもフロントサスペンションがしっかりと伸びて、グリップを失うことがなく安心して走ることができる。
◆最後の部分がジワッと
さて、テインの足まわりを装備した20周年記念車に乗り換える。「4×4ダンパー グラベル2」の装着により車高はフロントで20mm、リヤで15mm上がっている。クールバージョンには電動ステップが付いているが、この20周年記念車には装着されないため、“ヨイショ”という感じで乗り込むことになる。
走りはじめるとまず車高が上がったことによる視界の変化を感じる。クールバージョンはSUVという雰囲気だったが、20周年記念車はしっかりクロカン四駆。アプローチアングルは標準の32度から33度に向上。デパーチャーアングルは27度から30度に向上している。
何よりも大きな差を感じたのがモーグル走行だ。左右の車輪がフルストロークを繰り返すモーグル走行では、足が伸びてタイヤが接地に向かう際の動きがよくわかる。ノーマルの足まわりはスッと伸びていき接地感がいいように感じるが、「4×4ダンパー グラベル2」が装着された20周年記念車はじっくりと接地させていく感覚。接地していくプロセスのなかで、最後の部分がジワッとなり、落ち着き感がある。重いクロカンタイヤが暴れることなく、地面に向かって落ちていく感じだ。
◆安定したコーナリングがしやすい
コーナリングではアウト側が沈み込み、イン側が持ち上がるという形でロールが発生する。パラディンのようなフレーム車はこの際にアウト側はフレームとサスペンション構成部品の間にあるバンプラバーがロールを抑え、イン側はそのまま伸びきるのが通常だ。しかし「4×4ダンパー グラベル2」の場合は、ハイドロ・リバウンド・ストッパーがジワッと働いてロールを抑制する。
ここでもポイントは最後の最後だ。ステアリング切り始めからスッと動いてたロールが、最後に近づくに従ってジワッという動きに変わる。
サスペンションストロークの長いクルマで安定してコーナリングするには、まずはロールを落ちつかせてしまうのがいい。減衰が低いとロールスピードも速いがショックアブソーバーが底付きしてしまう。一方で減衰力が高いとロールスピードが落ちてなかなかロールが収まらない。ハイドロ・リバウンド・ストッパーを備えた「4×4ダンパー グラベル2」は、スッとロールするが最後の最後では、減衰力が強くなるので動きが抑えられる。必要なロールをさせた後に強い減衰力部分を得られるので、安定したコーナリングがしやすいというわけだ。
◆微振動が抑えられていて快適
また、ダンパー容量が増えているからだろうか、「4×4ダンパー グラベル2」を装着した20周年記念車は乗り心地も改善されている。標準仕様のほうで感じられた微振動がよく抑えられていて、快適性がいいのだ。これは日本よりも長距離移動が多いという中国では絶大な魅力となるだろう。
現在のところ「4×4ダンパー グラベル2」はパラディンの20周年記念車に装着されたモデルしか存在しないが、今後はそのラインアップを増やしてくるだろう。フレーム式クロスカントリーモデルの注目が高まってきているだけに、その開発スピードのアップに期待は高まるばかりである。