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マセラティが描く、最上級のスーパースポーツGTカー『MC20/MC20 Cielo』の世界観を味わう
◆マセラティが描く、最上級のスーパースポーツGTカー『MC20』
いうまでもなくマセラティは名門の自動車メーカーだが、名門たる条件は、ただ名車を多々輩出しているだけにとどまらない。レース・エンジニアリングに特化したメーカーであり、黎明期のF1やル・マンを瞬く間に制したことが何よりの証左だ。時代を大きくリードするエンジニアリング能力を備え、トリノやミラノ、ローマといったイタリアの他地域と異なる審美性に貫かれた、独特のエレガンスを発揮し続けている。
2020年に登場した『MC20』は、マセラティとして『MC12』以来のミッドシップ2シーターGTとなった。レース由来のパフォーマンスを、戦前から有閑階級の嗜みとして実践されてきた、グランドツーリングという大陸を駆け巡るような大旅行に惜しみなく用いること。それこそがマセラティという名のGTが、時代を経るごとに連綿とアップデートし続けてきた、独特の世界観に他ならない。
ちなみにMC20の由来は、「マセラティ コルセ(コルセはレースの意)」の頭文字で、数字は発表年の2020にちなむ。過去だけではなく、未来へも投影された現代のGTだ。
またクーペボディのみならず、バルケッタやスパイダーといったオープンボディも並行してラインナップされ、選べるのがマセラティGTの流儀でもある。MC20でもそれは受け継がれ、2023年の今年、新たに『MC20 Cielo(チェロ)』が加わった。チェロとは、イタリア語で空や天を指す。
◆空気力学が生み出した無駄のない美しさ
MC20のキャビンはいわゆるバスタブ型のモノコック構造で、パーツ単体で100kgに満たないほど軽い。最終的な車両重量も1600kg台に収まるほどで、前後車軸の重量配分は41:59。それこそレーシングカーのように無駄のないボディ構造に、実はマセラティとしては初採用の、上方へ跳ね上がるバタフライドアが組み合わされている。
見た目にはかなりスーパーカーライクなのだが、ドアの開口部自体はきわめて広く、サイドシルの足元側の通る部分を可能な限り低めることで、じつは乗り降りのし易さを見事に確保している。ただ意匠として美しいだけではなく、機能的かつ人間に優しいから結果的に美しい、そういうエモーショナルでありながら知性あるデザインが貫かれているのだ。
無駄のないエクステリア・デザインにも同じことがいえる。空力的に突き詰めたボディには無駄がなく、筋肉質なシルエットとなって抑揚を感じさせる一方で、大人びた調和を見せる。それでいてパフォーマンスだけを優先したスーパースポーツではなく、GTとして大人2名が快適に旅できるよう、フロントに50リットル、リアに100リットルのラゲッジスペースを、そして60リットルのフューエルタンク容量をも備えている。
◆機能美とラグジュアリーを尽くしたインテリア
人間工学的な観点から意を尽くされたデザインであることは、インテリアにも一貫している。カーボンファイバーで覆われたセンターコンソールに、ドライブモードセレクターやシフターがシンプルに配された様子は、レーシングカーのように明快でシンプル。一方でアルカンターラに覆われたダッシュボードやドアパネル、そしてステアリングの質感は、GTらしく乗員を柔らかく包み込むような居住空間を作り出している。
ドライビングの切れ味と快適性の両立をさらに予感させるのが、10.25インチのTFT液晶メータークラスターと10.25インチのワイドなインフォテイメント・スクリーンだ。後者はタッチスクリーンであり、WET/GT/スポーツ/コルサという4つのドライビングモード設定も、ここで選択する。機能美とラグジュアリーを突き詰めるほどに、シンプルに美しくまとめ上げられたインテリアは、まさしくイタリアンGTの正統でもある。
◆F1テクノロジーをロードカーで味わう、豪快無比な「ネットゥーノ」
そしてMC20を操る上で最大のハイライトとなるのは、マセラティの100%自社開発による新たな挟み角90度のV6・3リットルツインターボである「ネットゥーノ」エンジンだ。ネットゥーノとはギリシャ神話の海神ネプチューンをラテン語にしたものだ。
最大トルク730Nm、最高出力630psを発揮するこのパワーユニットは、11:1の圧縮比に88×82mmというボア×ストローク比が与えられている。今どき珍しいショートストロークだが、それだけではない。燃焼システムにF1でも用いられているプレチャンバー燃焼システムを採用しているのだ。このシステムを市販のロードカーとして採ったのはネットゥーノが初で、それこそマセラティの技術力の面目躍如。プレチャンバー燃焼は混合気を均一かつ瞬時に燃焼させるためのテクノロジーで、とくに高回転側で有効といわれ、ネットゥーノには低負荷領域を補うサイドスパークプラグも備わる。つまり1気筒辺り2本の点火装置を備えるツインスパークだ。
それでいて、エンジン単体では220kg以下という軽量コンパクトさを誇り、オイル潤滑にドライサンプを採用することで、オイルパンを薄く、エンジンの重心を下げることにも成功している。駆動システムは8速DCTそして機械式LSDまたはオプションの電子制御LSDが組み合わされ、前後重量配分は41:59という理想的なバランスを実現し、0-100km/h加速はじつに2.9秒、最高速度は325km/hに達する。
これは決して、力任せで達成されたパフォーマンスではない。美しく洗練された理想的なプランがあって、そこに向かってひとつひとつの要素を磨き上げ、効率を高めて積み上げていくことで緻密に実現された、結果的に豪快無比のパフォーマンスといえる。
◆“Cieloボタン”で広がるオープンルーフの世界観
この珠玉のエンジンがもたらす走りを、クーペと異なるもうひとつの存在というだけでなく、車としてさらに一歩、異なる世界観として踏み込んだ表現が、MC20 Cielo(チェロ)だ。エンジンフードを彩る大胆なトライデントのグラフィックは、はっきり外から眺めるのに、それこそ空からの視線が要る。ウィンドトンネル構造をデザインコンセプトとしたことで、MC20 Cieloのリトラクタブルトップ開閉は、わずか12秒でスムーズにスライドしてリアフード下に格納、もしくは出現してルーフクローズさせることができる。無論、いちいち煩わしい停止を強いられることなく、50km/h以下で走行しながら作動させることも可能だ。
MC20が採用するバスタブ型のモノコック構造はむしろ、このCieloでこそ恩恵を受けていると言えるかもしれない。リトラクタブルトップを閉じた状態でも、クーペのように流麗で美しいデザインを維持しているのはもちろん、パフォーマンスにも抜かりないのがマセラティだ。一般的に、リトラクタブルトップを持つオープンカーでは重量の増加や重心高の変化による走行性能への影響が小さくないが、バスタブ構造によって重量増は110kgにとどめ、それでいて高い剛性はキープされている。つまり、MC20クーペと遜色のない走りが、オープンエアでもほぼそのまま楽しめてしまうということだ。
リトラクタブルトップにはPLDCガラスが採用され、ルーフが閉じたままの状態でもCieloボタンを押すことで、瞬時に曇りガラスからクリアに切り替えられる。クーペのステッチや差し色にビビッドな配色を効かせたインテリアとまた異なる、オフホワイト系やチャコールのグレー系といったシックな内装が、光で満ち溢れる様子を五感で感じながら走ることは、MC20 Cieloならではの贅沢な時間といえるだろう。もちろんインテリアは、「フォーリセリエ」というパーソナライズプログラムで、自分だけの独自仕様に仕立てることもできる。