注目の自動車ニュース

ロールスロイス『スペクター』、電動化における課題は“信頼”だった…担当者インタビュー

  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • (参考画像)
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》

ロールス・ロイス・モーター・カーズは電動化戦略の製品第1弾となる、2ドアクーペのロールスロイス『スペクター』を日本でも公開した(6月30日)。価格は4800万円からだ。お披露目を機に、担当者に話を聞いた。

◆2030年までに全てを電動化
—:初めに伺いたいのは、ロールス・ロイスのEV戦略です。あらためて今後どのように進めていくのかを教えてください。

ロールス・ロイス・モーター・カーズプロダクト・スペシャリスト・エレクトリフィケーション・ストラテジーのフレッド・ウィットウェルさん(以下敬称略):すでに発表していますが、2030年までに全てのモデルを電動化します。このスペクターをはじめとして2030年までにフルエレクトリックレンジになりますので、これまでと違ったモデルもどんどん出て来るでしょう。

そしてこのスペクターはこれからのロールスロイスの電動化の基礎を築くモデルです。特に、“アーキテクチャーオブラグジュアリー(同社のアルミスペースフレーム)”による電動化第1歩だからです。

◆テクノロジーの成熟と信頼を裏切らないために
—:他のメーカーからは10年程前からEVモデルが出始めています。しかし、ロールスロイスでは、いままで出て来ませんでした。その理由はどういったものですか。

フレッド:ロールスロイスが必要とするテクノロジーの成熟を待っていたからです。例えばその時点のテクノロジーがお客様のニーズに即しているものか、あるいはお客様の要望に応えられているのか。さらにその時点のテクノロジーで我々がEVを作った際に何らかの妥協はないのか。そういうことを全部含めて考えた結果、このタイミングになりました。

さらにお客様が期待する航続距離もあります。お客様があまり乗らないとしても我々はそれ以上の航続距離を提供しなければなりません(スペクターの公表値は530km)。そういったことを踏まえて、テクノロジーが成熟してロールスロイスに相応しくなるまで待っていたわけです。

—:それはフレッドさんが主に担当したところとも関連しますね。

フレッド:はい、私が担当したのはエフォートレスであること、お客様にとって苦痛がないことでした。特に内燃機関からEVに移行する際にスムーズに、シームレスに行けるように考えることでした。例えばディーラーからもお客様に向けて、家庭で充電できるようなウォールボックスを案内しているのもその一環です。

—:そういうことを実現するために発売まで時間がかかったのですね。

フレッド:はい、とにかく“信用”というところが重要なのです。ロールス・ロイスから見た観点で、電動化というテクノロジーがどれだけ信用できるのか、そしてどれだけテストされているのかということも大切なポイントで、テストは本当に長くやりました。アイリーンが述べたように(ロールス・ロイス・モーター・カーズアジア太平洋リージョナル・ディレクターのアイリーン・ニッケイン氏)、250万キロに及ぶテスト走行を、過酷な気候、路面条件、温度に加え、お客様の生活分析なども5万時間にも及ぶ分析を行い、これらを換算すると、クルマを400年間利用したことに相当するほどテストを行いました。

さらに、お客様も我々のブランドを信用していただいているので、この信用を裏切ってはならない。この信用に応えるため、さらにはこの信用を上回るためには本当に絶対に妥協してはならない。その結果としてこのタイミングになったのです。

◆DNAと新たな解釈と
—:電動化戦略の第1弾として2ドアクーペを選んだのはなぜですか。

フレッド:このエモーショナルなデザインが電動化戦略と最もフィットするのではないかというのがまずひとつ。それから『カリナン』や『ファントム』なども含めて、最近ローンチしたモデルもありますので、そのタイミングと合わせるとクーペが最適だと判断しました。

—:スペクターらしいと感じられるエクステリアデザインのポイントを教えてください。

フレッド:まずは全体のフォルムです。シンプリシティ、シンプルなフォルムながらも、エレガンスを感じさせていて、全体としてロールス・ロイスとして成立しているというのがこのスペクターのエクステリアデザインのユニークネスではないかと思います。

フロントフェースを見ますと、ここはロールスロイスのキャラクターを決める大切な要素、DNAです。まずはスプリットヘッドライト。これは『ファントムクーペ』で採用しましたが、スペクターでは、もう一度解釈し直して採用しました。

次にパンテオングリルです。ロールスロイス史上最大の幅を持っています。グリルとしての機能であったエンジンを冷却する必要はなくなりました。しかし、この美しいファストバッククーペの周りに流れる空気を整える役目を持っています。

そしてスピリットオブエクスタシーを挙げないわけにはいきません。デザインが変わったのです。よく見ると他のクルマよりも前傾姿勢になっているのです。ただしスピリットオブエクスタシーですから、エレガントでアイコニックでなければならない。これも同時に成立させています。

サイドビューでは、この美しいシルエットのルーフラインにより、本当にエレガントなファストバックのシルエットを完成しています。さらに2つのライン、ドアハンドルの高さのショルダーラインと、そして下の部分のワフトライン(サイドシル上部)があります。このラインはフロントに向かってテーパー上になるようにデザインされています。そうすることで静止状態でも、前に進んでいるようなイメージを与え、かつ、この3つのラインのハーモニーでエレガントさを強調しているのです。

またアルミホイールもグッドウッドロールスロイス史上最も大きな23インチホイールが装着されました。

テールライトは消灯すると完全なカラーレスになります。これは大きなポイントです。伝統的にテールライトというのは赤が定番ですよね。しかし、あえてノーカラーにしました。その理由は、ロールスロイスのお客様は、ビスポークすることが非常に多く、それはボディカラーも同様です。従ってノーカラーのテールライトを採用することで、いかなるペイントカラーを使ってもそれと喧嘩をしないという大きなメリットが生まれるのです。

◆テクノロジーを愛する新規顧客層も
—:ではどういうお客さまがスペクターを購入すると思われますか。

フレッド:おそらくは本当にテクノロジーを愛し、かつ興味のあるお客様を新たにお迎えできると思います。同時に、既にEVに乗っているが、スーパーラグジュアリーセグメントのEVを待っていたお客様もいらっしゃるでしょう。

—:たぶんそういったユーザーは複数台所有をされているでしょう。そこでのキーとなるのは何ですか。

フレッド:2ドアクーペというのがすごく大きな要素になるでしょう。エモーショナルなクルマのスタイルとしては2ドアクーペというのは何にも代えられません。更に、ロールスロイスらしいマジックカーペットライド、触れるもの、感じるもの全てがスーパーラグジュアリーであるということ。こういった点でお客様はこのスペクターを購入すると考えています。

—:そういったユーザーはEVであることを待ち望まれていたのでしょうか、あるいは、やはりV型12気筒エンジンが良かったと思っているのでしょうか。

フレッド:おそらくは、特にロールスロイスを購入されるレベルのお客様は電動化車両、EVを買うことにある種のナーバスなところがあったのではないかと思っています。しかし、先程も申し上げましたように、ロールスロイスが電動化車両を出すのであれば信用ができると考えて購入してもらえる。

そして既存のV型12気筒を好まれる要素のひとつは静けさと、瞬間的にトルクが出ることです。それは電動化車両であれば完全に実現できますし、またガソリンスタンドにわざわざ行かなくても、家庭でチャージするだけで常にクルマを使うことができるというメリットも提供出来るでしょう。

特にこの点はとても大事です。ロールスロイスを購入するようなラグジュアリーなお客様は“マネーリッチ・タイムプア”、お金はあるけれども時間がない、時間を買えるのであれば買いたいというタイプのお客様ですから、わざわざガソリンスタンドまで行かないで、家庭で充電できるという点がアピールできるのではないでしょうか。

—:以前『102EX』(2011年発表)など、電動化に向けたコンセプトモデルがありましたが、この間で最も進化したことは何でしょう。

フレッド:これらはロールスロイスのテストカーであり、お客様の需要が高まっていく中で、ロールスロイスとしてもこんなことができますという我々のエンジニアリングをアピールする意味が含まれていました。

同時にロールスロイス社内でもしっかりと成長を遂げなくてはなりません。いままでのクルマを作ってきた人間、クラフツマンやエンジニアがEVを同じように作れなければならないというのもありました。そういったことがこのスペクターのデビューまでに培われたことなのです。