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【トヨタ アルファード/ヴェルファイア 新型】先代の300万円台モデルのオーナーは何に乗り換える? 巧みな販売戦略
2023年6月に発売されたトヨタ『アルファード』と『ヴェルファイア』の価格は、福祉車両のGサイドリフトアップチルトシート装着車を除くと、最も安価なグレードでも540万円だ。ヴェルファイアは一番安いグレードが655万円に達する。
◆先代のベーシックなグレードは300万円台
ちなみに先代アルファードの価格は、最も安価な2.5LノーマルエンジンのX・2WD(8人乗り)が359万7000円であった。エアロパーツや18インチアルミホイールを装着したスポーティな2.5LのSでも398万5000円だ。つまりノーマルエンジンの比較的ベーシックなグレードは300万円台であった。新型アルファードのZ・2WDは前述の540万円だから、少なくとも140万円は高い。
さらに新型のハイブリッドは、Gサイドリフトアップチルトシート装着車を除くと、最も安価なアルファードハイブリッドZ・2WDでも620万円だ。先代型のハイブリッドは、後輪をモーターで駆動する4WDのE-Fourのみで価格は高かったが、ハイブリッドX・E-Fourの8人乗りなら461万3000円であった。新型は約160万円上回る。このように新型アルファードとヴェルファイアの価格が高い理由は、現時点では、価格の求めやすい中級やベーシックなグレードを用意していないからだ。
◆半導体不足や受注の多さからグレードを限定
アルファードとヴェルファイアは、2022年6月から約1年間にわたって受注を停止しており、販売店には従来型のユーザーが「新型が登場したらスグに注文を入れてくれ」という希望を数多く寄せていた。しかも半導体を始めとするパーツの供給状況は、今でも平常に戻っていない。販売店によると「現時点(2023年7月上旬時点)で、納期は1年半近くに達した。販売会社によっては、受注台数が上限に達して、受注を停止させている」という。
この状況で、さまざまなグレードを用意すると、納期がさらに伸びてしまう。そこで現時点では、設定グレードをアルファードは上級のZと最上級のエグゼクティブラウンジ、ヴェルファイアも上級のZプレミアと最上級のエグゼクティブラウンジに限定した。クラウンクロスオーバーやシエンタも、発売当初は、特定のグレードやオプションについて納期を早めていた。
そしてサイドリフトアップチルトシート装着車に中級のGグレードが用意されることから分かる通り、今後、受注と生産が落ち着くと、G、S、Xといった価格の求めやすいグレードも追加される。2.5Lノーマルエンジン搭載車であれば、昨今の価格上昇で300万円台は難しくても、400万~500万円の中級グレードは選べるようになる。ハイブリッドも500万~600万円のグレードが加わる。
◆グレード設定や車種の統廃合は一筋縄ではいかない
さて今の状況で、先代型の割安なXやSを買っていたユーザーはどうしているのか。販売店に尋ねると以下のように返答された。「中級グレードの登場を待っているお客様もおられる。アルファードやヴェルファイアは、存在感、質感、居住性などが別格だから、ノアやヴォクシーの上級グレードに乗り替えるお客様はほとんどいない」。
ちなみにホンダでは、『オデッセイ』の廃止に伴って、『ステップワゴン』に最上級のスパーダプレミアムラインを設定した。日産も『エルグランド』の設計が古くなり、『セレナ』にプロパイロット2.0などを標準装着する500万円近いe-POWERルキシオンを用意した。
いずれもオデッセイやエルグランドからの乗り替えを狙ったが、実際には、これら上級ミニバンのユーザーがミドルサイズのステップワゴンやセレナを購入することはほとんどない。結局、乗り替え戦略は机上の空論に終わった。
従って車種の廃止は、慎重に行わねばならない。オデッセイを廃止したら、その穴は、ステップワゴンでは埋まらないのだ。そこでオデッセイは中国製の輸入を決定したが、既にオデッセイの顧客はホンダから離れ始めている。ユーザーのクルマに対する気持ちを軽く扱うと、取り返しのつかない結果を招く。
その点でトヨタは商売上手だから、前述の通り上級グレード限定で売り始めた。最初は供給量に対して需要が多く、熱心なファンが買うから、価格が500万~900万円でも問題はない。ライバル車も不在で競争がないから、トヨタの望み通りに販売できる。
そして熱心なファンに行き渡り、納期も短くなってきたタイミングを見計らって、前述の中級グレードを加える。アルファードとヴェルファイアは、こういうメーカー都合の売り方ができる数少ない特権階級的な車種だ。