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アウディ伝説のラリーマシンがモチーフ、680馬力ツインモーター搭載…ケン・ブロック『エレクトリカーナ』に起用
アウディは11月18日、ケン・ブロック氏の最新映像『エレクトリカーナ』に起用された1台限りのEVスポーツ『S1 e-tron クワトロ・フーニトロン』(Audi S1 e-tron quattro Hoonitron)の詳細を発表した。
◆2400mmを切るホイールベースはA1スポーツバックよりも短い
アウディはケン・ブロック氏と、EVの分野で協力する。最初の共同プロジェクトとして製作されたのが、ワンオフEVのS1 e-tron クワトロ・フーニトロン。S1 e-tron クワトロ・フーニトロンは、アウディの伝説のラリーマシン『スポーツ・クワトロS1』をモチーフにしたEVだ。
S1 e-tron クワトロ・フーニトロンでは、前後重量配分を52対48とした。ホイールベースは2400mm以下で、アウディのエントリーモデル『A1スポーツバック』の2563mmよりも短い。これにより、コーナリング時の俊敏性を追求した。この短いホイールベースは、ヨーイング(垂直軸を中心とした回転運動)に有利に働き、ドリフトに適した設計とした。
前後アクスルには、マクファーソンストラットを採用した。スプリングストロークが200mm以上のサスペンションを組み合わせることにより、ジャンプシーンを含む過酷な走行に対応できるようにした。
◆アウディの市販PHEV用の高電圧バッテリーを4個搭載
EVのS1 e-tron クワトロ・フーニトロンには、電動4WDシステムを搭載した。前後アクスルは、それぞれモータースポーツから技術的なフィードバックを受けたモータージェネレーターユニット(MGU)によって駆動される。
これら2つのユニットの1基あたりの重量は、トランスミッションを含めて55kgに抑えた。アウディの市販PHEV用の高電圧バッテリーが4個搭載され、駆動システムに電力を供給する。各バッテリーの蓄電容量は14.4kWhで、4個の総容量は57.6kWh。作動電圧は800Vだ。
この基本コンセプトにより、S1 e-tron クワトロ・フーニトロンは、さまざまな状況におけるドリフトやスタント走行に最適なキャラクターを備えているという。
◆2つのモーターが65.2kgmのトルクを発揮
前後アクスル間のパワーは、完全可変配分とした。それにより、ドライバーのニーズを満たし、ニュートラルなステアリング特性を実現した、と自負する。それぞれのMGUは、最大出力340hpと最大トルク32.6kgmを発生する。システム全体で680hpのパワーと65.2kgmのトルクを発揮している。
電気モーターの最高回転数は2万8000rpm。エンジニアリングチームはドリフト走行用に、およそ12対1のギア比を設定した。これにより、パワー損失を考慮しても、前後アクスルに伝達されるトルクは、合計で612kgmに達するという。
この強大なトルクが、ケン・ブロックのドリフト走行を支援する。また、最高速は200km/h以上に到達している。これらの機能を組み合わせ、特別な目的を持って製作されたS1 e-tron クワトロ・フーニトロンは、アウディの長いモータースポーツの歴史において、ユニークな存在になっているという。
◆モチーフはWRCで活躍した「スポーツ・クワトロS1」
アウディは1980年、ジュネーブモーターショーで、アウディ『クワトロ』を発表した。同車でアウディは、1981年からWRC(世界ラリー選手権)に参戦。以降、「WRCはフルタイム4WDでなければ勝てない」という常識が生まれ、新たな自動車の歴史を築いた、と自負する。
スポーツ・クワトロS1は、アウディが1981年からWRCに投入したアウディ『ラリー・クワトロ』の進化形として、1984年から実戦投入された。WRCでのタイトル争いが苛烈になるにつれ、ライバルメーカーは、当時のグループBのレギュレーションの許容範囲を活用して、ラリー用にミッドシップレイアウトを含めた新設計モデルを製作するようになった。それに伴い、アウディも1984年シーズン途中に、ホイールベースを縮めてハンドリングの敏捷性を高めたスポーツ・クワトロを投入した。翌1985年シーズンには、パワーを500hpまで高めたスポーツ・クワトロS1をデビューさせた。
スポーツ・クワトロS1には、排気量2110ccの直列5気筒ガソリンターボエンジンを搭載していた。最大出力は476psを引き出す。車両重量は1090kg。0~100km/h加速3.1秒、最高速240km/hの性能を備えていた。スポーツ・クワトロS1は1986年、WRCのモンテカルロラリーにおいて、ヴァルター・ロールがドライブして優勝するなど、活躍を見せている。