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【マツダ CX-60】SUVらしさとマツダらしさを結びつけていく…チーフデザイナー[インタビュー]
マツダから新開発のラージプラットフォームを使ったミドルサイズSUV、『CX-60』がデビューした。そのデザインコンセプトは、“ノーブルタフネス”。この意味するところは何か、また、デザインの特徴はどういったところか。SUVを手がけるのは初めてだというチーフデザイナー玉谷聡さんに話を聞いた。
◆SUVとなると、ちょっと荷が重いなと
「かれこれ5年ほど前の話ですが、ラージ群という商品群をスタートするという方針が決まりました。その時は個別の車種がどれで、どれを担当するのかという以前だったのですが、大きなマツダの戦略で社運をかけたものだということは分かりましたので、かなり身が引き締まりました」とCX-60のチーフデザイナー、玉谷聡さんは担当になった時の気持ちを語る。「その時は得体が知れなかったのですが、相手が“でかい”っていうことだけはわかっていて、そういうスタートでした」と話す。
その頃マツダのデザインでは、『RX VISION』が完成し、『VISION COUPE』を“研ぎ上げて”いるころだった。「ほぼデザイン本部内で完成して、良いのができたぞというタイミングでした。そこで、何が良いのかを自分たちでもしっかり具体的に分析してほしいと前田(前田育男・現マツダシニアフェローブランドデザイン、当時は常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当)からありました。みんな格好良いよねというんですが、じゃあどこがどうなのか。このままではあくまでビジョンですので、どこひとつとっても量産になる要素がないわけです。それを実際の量産車にしていくためには、この良さはいったい何かというところを、解剖していくところから始めました」。それは、このコンセプトモデルたちをラージ商品群として作る際のテーマとして使っていくことが決まっていたからだ。「これらをもとに本当の製品にするのが自分の責務なんだなと思いました」と当時を振り返った。
その時に玉谷さんは、SUVに決まったら大変だと思っていたそうだ。「どのVISIONモデルも低くて尖がっていましたから、それをSUVでとなると、ちょっと荷が重いなと。しかし、計画が進んでいくと、SUVからやらなければいけないんだなということが分かってきて。そこでちょっと腹をくくりました(笑)」とのことだった。
ではVISIONコンセプトの良いところはどこだったのだろう。それは、「体格(ボディ全体)としてどれぐらいのムーブメントを表現しているかです」と明確に答える。これは、「プロポーションや骨格。そしてその骨格をシビアに見ていくと、シルエットのラインの方向性とかになっていきます。それとボディに映る光などを含めた全てのムーブメントが一緒に動いているということなんです」という。つまり、「ここの部分が美しい、ここの部分は美しくないではなくて、そのクルマの骨格として、ぐっと動きを見せていく。そのひとつの動きに全てのものが連動して完成形になっている。この完成度の高さではないかと考えました」と語る。
◆SUVらしさとマツダらしさを結びつけていく
そういったことを踏まえつつCX-60はデザインされていった。そのデザインコンセプトは“ノーブルタフネス”。マツダはこれまであまりデザインコンセプト自体を前面に出してこなかった印象がある。「デザイナー同士のイメージあわせは必要で、デザインのスタート時点でふんわりとみんなが考えてることを、リーダーがこういうクルマにしていこうとディスカッションして、大体方向性があっていくものです。ただ何となく軸が揃ってないという時に、ふっと肝落ちするシンプルなキーワードがいるんですよね。ただ、それを発表するかどうかはまた別で、今回はお披露目するべきだと考えて本当に生の我々のキーワードをお伝えしました」。
このコンセプトが提案された背景について玉谷さんは、「先程もお話したSUVの難しさがありました。世間一般にいうSUVらしさとマツダらしさは、すっと結びつかないはずなんです。それを結び付けていくことと同時に、クルマも開発が進んでいくと、相当走りの素性がいいぞということがわかりました。我々が魂動デザインで表現しようとしてるしなやかな強さというものにどんどん近づいてきているんです。つまり走りに関するエンジニアも同じことを求めいる。それは荷重のかけ方や、骨格の作り方で、それらがどんどん我々の思想とも似てきているので、これはもう上手く合致させるしかないと考えました」と述べる。
ではなぜノーブルタフネスか。「動きの表現は良しとして、やはりSUVらしさは絶対に出さないといけない。どこから見てもSUVでなければいけない。これは自戒を込めてもいるんですが、ふわっと綺麗に作り込んでいくうちに、SUVらしさが消えたらアウトなんですよね。僕はSUVをやるのは初めてなので、『マツダ6』や『アテンザ』をデザインした時のように流麗な方向に振っていくと、どこかでSUVではなくなってしまう。それではダメなんです。ですから、SUVのおおらかさ、強さというのがきちんと前面に出た上で、魂動デザインがきっちりとそこにうまく組み込まれていることを目指しています。ここはSUVで、ここは魂動デザインとギクシャクしているのではなく、しっかりひとつのものとして融和しなければいけない。それを組み上げるためにあえてノーブルとタフという全然違うワードを掛け合わせているのです」とその言葉に込めた思いを語る。
◆チーターは例えだけど
SUVと魂動デザインでいえば、初代『CX-5』がスタートだ。そのイメージはチーターが大地を蹴り出す様子からインスピレーションを得たものだった。それはCX-60も同様であるという。
「チーターは例え話ですが、要は地球には重力があって、大気も水の粘性も重力によるもの。これは他の惑星では多分違うんです。その地球の上を速く走るために進化してきた動物にチーターがいるわけですよね。それを例えているんです。要は地球の表面を動態として走るときに、速く走ることは美しいはず。そして前に向かって速く走ろうと思ったら、高出力のパワーをグッと地面に伝えて前に進まなければいけない。その時の原理は、後ろのタイヤにしっかり荷重をかけて前に行くようにする。前のタイヤだけでやると空転したりしてしまいますからね。チーターの例えは、しなやかな加速は後ろから前に押すことだということがいいたかったんです。それをクルマの作りそのものも、そのようにできていますし、いままでデザインで表現しようとした動態美学みたいなものの根本もそこにありますということをお伝えしたかったんです」
「CX-60はクルマの走りとデザインの骨格の作り方が合致していますので、その走りの美しさを表現するための生命感を表していくというのは、我々の中で不動のもので、ずっと表現しようとしていることです。その表現手法が静的なイメージの場合もあるでしょう。それは多分、成熟したものを伝えようとしてるんです。成熟した文化的なレベルの高い造形に移行していくんですが、その根本はやはり動体美学で、そこはきっちり磨き上げていきます」