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【日産 サクラ】実質170万円台で買える『軽EV』のインパクト、燃料代のメリットと残された課題とは
エンジン車とほぼ同じ価格で買えるEV『サクラ』
日産『サクラ』が発表になり、その車両価格に驚いた。「S」グレードの233万3100円からということで、サクラの基となったといえる『デイズ』でもっとも高価な「ハイウェイスターG ターボ・アーバンクロム・プロパイロットエディション」の178万0900円より55万2200円なお高いとはいえ、電気自動車(EV)購入での補助金を加味すれば、サクラSグレードは約178万円となって、デイズの最上級グレードと同等になる。
もちろん、もっとも安いグレード(EV)と、もっとも高いグレード(エンジン車)の比較だから、正当だといえないとの声も聞こえそうだ。とはいえ、軽自動車のEVが、エンジン車の軽自動車と価格的に差のない範囲まで値が下がってきたのは事実である。
ちなみに、サクラの最上級車種のGグレードは294万0300円だが、補助金額を考慮すると240万円弱になる。また、東京都ではEV購入に際して最大で45万円の補助金を用意している。これを加えると、Gグレードでも200万円を切る可能性が出てくる。
2009年に、三菱自動車工業が『i-MiEV(アイミーブ)』を発売したときの価格は、459万9000円だった。それに比べると、13年間でほぼ半額近くに値下がったことになる。このことは大きい。
『デイズ』との性能比較は
価格の話で、サクラはもっとも安いグレードで、デイズはもっとも高いグレードでの比較とした件だが、走行性能においては、EVになるとグレードの上下に関わらず差がなくなる。一方、デイズは手ごろな価格の車種は自然吸気(NA)エンジンとなるので、ガソリンターボエンジン車とは性能面で52ps(38kW=キロ・ワット)と64ps(47kW)と出力差がある。しかしサクラでは、どのグレードでも同じ47kWのモーター出力になる。ターボ車と同じ性能だ。
燃費では、NAエンジン車はWLTCモードで21.2km/リットルであるのに対し、ガソリンターボエンジン車は19.2km/リットルに悪化する。しかしサクラならグレードを問わず一充電走行距離はWLTCで180kmだ。つまり消費電力にグレードによる違いはないことを意味する。
身の周りに関する装備などで差はあるとしても、EVになると走行や乗り心地などを含めた走りの性能には、グレードの上下差はなくなる。もし、通勤など実用面だけを重視するなら、廉価なEVでも、壮快な走り味や、静粛性・乗り心地のよさは、上級車種と変わらぬ満足を得られることになる。
EVとは、そういうクルマなのだ。同じことは、サクラと共に共同開発された、三菱『eKクロスEV』でもいえる。
燃料代はガソリン車の半分?
そのうえで、ガソリン価格が高騰する今日、電気代で済むEVであれば燃料代を安上がりにできる。概算で、ガソリン代の半分以下と思っていいだろう。
ガソリン価格が高止まりする今日、5月半ば時点で全国平均はレギュラーで1リットルあたり約165円だ。これを、デイズのガソリンターボ車の燃費を基に計算すると、1km走るのに8.6円の燃料代になる。ガソリンターボ車とEVは、最高出力が同じだから比較対象とした。これに対し、サクラは1km走るのに使う電力が124W(ワット)なので、東京電力の電気料金で高い金額の1kWあたり30円で計算すると、3.7円になる。つまり、ガソリン代の43%の電気代で済む計算だ。
このことは、通勤で毎日ほぼ同じ距離を走るような使い方の場合、交通費の支出が半減することになり、企業から補助を受けていれば、企業側も従業員へ支払う交通費を減額できることにつながる。従業員も経営者も、ともに固定的な出費といえる通勤代を減らす利点を得られるということだ。
その浮いた分を、生活費や行楽などにまわしてもよいし、企業なら従業員の福利厚生面で別の手当てや利点を生み出し、労働意欲の向上につなげてもいい。限られた手持ちのお金のなかで、無理なく減らせられる交通費という視点がEVでは生まれる。
200Vの普通充電コンセントを普及させるには
とはいえ、国内でEVを普及させるための最大の課題は、マンションやアパートなど集合住宅や、月極駐車場などに、200Vの普通充電コンセントを設置しにくい実情がある。それによって、これまで国内でEVはなかなか普及しなかった。新車販売で1%に至らない実情の背景に、これがある。
しかし、通勤に使える軽乗用EVであれば、会社や工場などの駐車場に200Vのコンセントをまとめて設置すれば、設置費用も抑えられ、会社で充電することにより支障なく通勤で利用できるだろう。働いている間に、満充電にできるのだ。
ちなみに日産サクラの場合、200Vの普通充電でも8時間で満充電になる。まさに就業時間内で完了だ。そしてWLTCで180km走行できれば、家と会社との往復には十分なはずだ。
そのうえで、帰宅後に緊急の外出が必要な際には、最寄りや移動途中の急速充電を1回すれば、多くの場合で用が済むだろう。ガソリンスタンドと違い、急速充電施設は24時間使用できる機器が多い。
通勤でEVを使うことで、充電への不安もかなり払拭されることになる。そして、従業員と企業ともに利点を得られるのだ。
従業員のEV比率が高まれば、企業に求められている脱二酸化炭素やSDGsの取り組みの一貫として、成果を公表できることにもつながるだろう。そのことは、投資家の出資意欲を促すことにもつながる可能性がある。それによって、事業所に太陽光発電など再生可能エネルギーの設置を進めることにもつながるかもしれない。
経済的利点と、使い勝手の満足と、そして社会貢献という、様々な価値を実現し、未来へ期待を持つことのできるのが、EVのなかでもとくに軽自動車であり、身近な価格で実現した日産サクラや三菱eKクロスEVの大きな意味が、そこにある。