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【マツダ CX-60】大排気量ディーゼルに初のPHEV、上級な「ラージ商品群」を富裕層はどう評価するか
マツダは4月7日に、新型のマツダ『CX-60』の日本初公開を行った。CX-60はこれまでなかった車種で、マツダが2019年に表明した「ラージ商品群」の第1弾となる。
EVだけが脱二酸化炭素につながるわけではない
マツダは、2002年にZoom-Zoom宣言として、走行性能と造形に力を注ぐ独自の商品戦略を開始した。それを継承しつつ、2007年には環境課題の解決と継続的な成長を視野に入れサステイナブルZoom-Zoomと表現を改め、次世代へ向けた長期戦略を掲げた。同時に今後の開発の方向性を図示する、ビルディングブロックと呼ぶ計画を策定し、それに基づいて今日に至る。この間、2017年には、自動車産業における変革の流れを受け、サステイナブルZoom-Zoom 2030へと計画を進化させている。
サステイナブルZoom-Zoom 2030では、従来のタンク・トゥ・ホイール(車両単体の燃費)から、ウェル・トゥ・ホイール(年老製造から走行までの燃費)へと視野を広げ、仕向け市場のエネルギー事情に即した商品の導入を明らかにした。電気自動車(EV)だけが将来の脱二酸化炭素につながるわけではなく、内燃機関のさらなる改善と電動技術の組み合わせという選択肢を設けるなかで達せられるべきと、マツダ独自の見解を示したのだ。
そのうえで、2019年のビルディングブロック第2段階における、スモール商品群とラージ商品群が達成すべき目標の違いを明らかにした。スモール商品群の電動化ではマイルドハイブリッドとEVの道筋を設け、ラージ商品群は直列6気筒エンジンと8速自動変速機の新開発に加え、マイルドハイブリッドとプラグインハイブリッド(PHEV)を目指すとした。続いて2025年ごろには、ビルディングブロックの第3段階としてEV導入を目指すとしている。
今回のCX-60は、ラージ商品群の第1弾として、新開発の直列6気筒エンジンがはじめて公開され、またマツダ初となるPHEVの車種も設定される。
「e-SKYACTIV」のディーゼルとPHEV
事前に実施された技術フォーラムでは、直列6気筒ディーゼルエンジンと8速自動変速機を組み合わせたマイルドハイブリッド車「e-SKYACTIV D」と、直列4気筒ガソリンエンジンに高出力モーターを組み合わせたPHEV「e-SKYACTIV PHEV」のプロトタイプが用意され、それぞれ技術の詳細が解説された。なお、今後は、直列6気筒エンジンにガソリンエンジンを用いたSKYACTIV-Xも加わるようだ。
直列6気筒エンジンは、後輪駆動(RWD)となるラージ商品群のために新開発された。詳細が明らかにされたディーゼルエンジンは、排気量が3.3リットルである。
これまでマツダのディーゼルエンジンは、直列4気筒の1.8リットルと2.2リットルの2種類がある。このうち、2.2リットルディーゼルの単気筒当たりの排気量は0.55リットルとなり、これを6気筒にすると3.3リットルとなる。2.2リットルディーゼルエンジン技術の継承が可能な6気筒化といえる。
マツダは、対2008年比で30%の燃費改善を目標に、7年後の2015年にはSKYACTIV技術の導入によって26%の燃費向上を実現しており、その後ろ盾となったのは、内燃機関の理想の燃焼へ向けた工程表だ。そのなかで、ディーゼルエンジンについては、今回の直列6気筒エンジンによって、比熱比、燃焼期間、燃焼時期の3項目で、ほぼ最高水準に達したと説明する。比熱比とは、温度を上げるのに必要な熱量を指す。熱量はエネルギーと考えることができ、温度を上げるのにどれくらいのエネルギーがいるかという指標で、それは燃費につながると考えていいだろう。
大排気量3.3リットル直6ディーゼルのねらい
直列6気筒とすることにより排気量を増やせることで、出力に余裕を持たせられる。これによって無暗にエンジン回転数を高めなくても、十分な力(トルク)が得られる。エンジン回転数を高めるほど損失は増え、効率が悪化するので、燃料を消費した割には出力の上がり方は鈍り、燃費の改善も伸びない。車両重量に対し最適な排気量というのはある程度必要なのだ。燃費によいと思って小排気量で無理に回転をあげて走るより、出力にも燃費にも適正な排気量が存在する。
3.3リットルの直列6気筒ディーゼルエンジンは、排気量のゆとり分を燃費と窒素酸化物(NOx)排出量の低減に用いたとマツダは説明する。NOxの削減では、EGRの活用が主体であるとの説明だが、いずれにしても出力を得るうえでゆとりがあることにより、燃焼温度を上げ過ぎないことがNOx低減につながる。
エンジン技術では、ピストン頭頂部に設けられた2段エッグと呼ぶ、2段階の窪みを新採用した。これによって軽油と空気の混合をより向上し、燃やし尽くす改善を施した。燃料の燃え残りが粒子状物質(PM)となり、ディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF)による排出ガス浄化性能が左右される。PMをできるだけ燃やし尽くすことがディーゼルエンジンの進化に欠かすことはできない。
それらを総合し、直列6気筒ディーゼルエンジンは、最大トルクで24%の向上、燃費は8%の向上、NOx排出量も低減できたとする。
プロトタイプの試乗では、マイルドハイブリッドとしてモーターを活用しながら、低速トルクに物足りなさを覚えた。上級車種にとって発進を含め速度の低い領域でのトルクのゆとりは上質さに不可欠であり、完成の折には改善されることを期待する。
エンジンが主張するマツダ初のPHEV
PHEVも、マツダ初である。直列4気筒ガソリンエンジンと8速自動変速機を組み合わせ、これに高出力モーターを追加している。それら配列の仕方は、マイルドハイブリッドと同様で、モーター出力(つまりモーターの寸法)の違いだけという構想だ。モーターの前後には、湿式多板クラッチを使い、流体部分を持つトルクコンバーターは排除した。これも、燃費向上の策といえる。
モーター走行は、プロトタイプ車によるテストコース内の試運転で100km/hあたりまで持続できた。だが、アクセルペダルを強く踏み込むと、バッテリー残量があってもエンジンが始動した。モーター走行とエンジンを併用したハイブリッド走行では車内騒音に大きな差があり、それぞれの走行感覚を区別した特性と感じた。マツダによれば、エンジンと変速機を使った走りが、運転にリズムを与えるという。そして、エンジン騒音が大きく感じたのは、擬音を追加しているせいもあるとの説明であった。
海外を含め他社のPHEVは、モーター走行に近づけた乗り味とする傾向にあり、エンジンの存在を消す努力が払われている。ことにPHEVで先行する三菱自動車の新型『アウトランダーPHEV』は、エンジンが始動してもモーター走行の持ち味を損なわない特性だ。そもそもPHEVとは「プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ヴィークル」の頭文字である。
しかしCX-60は逆の発想で、エンジン車の走行感覚を継承する意図が感じられた。これをマツダは、「ドライビング・エンターテイメントSUV」と表現する。
上級さを求められるラージ商品群への富裕層の評価は
日本より前にCX-60の受注を開始している欧州では、この先2025年頃を目途に、ユーロ7として一段階厳しい規制が実施される予定だ。二酸化炭素(CO2)排出量規制も、さらに強化されるとみられる。そのなかで、生き残りを賭けた戦略が世界の自動車メーカーによって繰り広げられている。
マツダのラージ商品群は、これまで以上の上級さを求められる領域であり、EVを含めモーター駆動の特徴を活かした競合があるなかで、富裕層にどのような評価がされていくか見守りたい。