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【ホンダ ステップワゴン 新型】初代や2代目の完成度をモチーフに…エクステリアデザイナー[インタビュー]
間もなく正式デビューするホンダ『ステップワゴン』。そのエクステリアデザインは初代から2代目を感じさせるものだ。そこでエクステリアデザイナーにその特徴や「AIR」と「スパーダ」のデザインのポイントについて話を聞いた。
◆走りそうに見せたい
—-:ホンダの重要車種であるステップワゴンですが、花岡さんがこのクルマのデザインの担当が決まった時、どう思いましたか。
本田技術研究所デザインセンターオートモービルデザイン開発室プロダクトデザインスタジオアシスタントチーフエンジニアの花岡久和さん(以下敬称略):難しいの来たなと(笑)。正直、現行が大成功とは言い難いところもあり、それを起死回生させるのか、など色々思いを巡らせました。
—-:その時にどういうクルマにしたいと考えましたか。
花岡:僕自身はまず、走りそうに見せたいというのが実は先にありました。僕自身、よく走るクルマ、スポーティなクルマが好きで、ミニバンといえど、やっぱり見るからに走りそうでないと嫌だなと思っています。開発初期の段階で鷹栖のテストコースで色々なクルマの試乗会をしたんです。そうすると、先代ステップワゴンはものすごく良く走るんですよ。これが見た目で伝わらなければもったいないぞ、中身はメチャクチャ良いじゃないかこのクルマは、と思いました。ですので走りそうに見せたいという考えが実は先にありました。
ファミリーカーとか使い勝手、そこに至るストーリーは、作り方を考えていく中で出た話ですので、クルマはまず走るってなんぼ、走るシャシーがあって、走りそうな見た目が伴ってないとダメじゃないかいうのが始まりでした。ですのでスタンスなどは非常に気を配っています。
◆AIRは500km、スパーダは800kmくらい遠くに行きたくなるように
—-:いまの花岡さんのお話の内容とグランドコンセプト、“素敵な暮らし”とはちょっと違うイメージも感じられますね。
花岡:コンセプトと違うとは正直思っていないんです。その素敵な暮らしを提供するためにお客様に与えたい要素は、“安心と自由”です。良いスタンスで良いハンドリングというクルマは安心じゃないですか。これに乗ってどこまでも行ける自由さは、スタンスが良くて、走りそうじゃないと伝わらないと思うんですよね。開発責任者やほかのデザイナーたちと“ワイガヤ”をしたときに、このクルマでドライブするんだったら高速に乗って最低500kmぐらい遠くに行くクルマにしたいよね、大陸スタイルがやりたくなるぐらい走りそうなクルマに見せたいよねと話をしました。そういうこともありましたから、もともとしっかりと走るので走りそうに見せたいのです。因みにスパーダの方は800kmまで行こうか、広島くらいまで行こうかと、そういう思いでやっています。
—-:具体的にそれが表現されているところはどのあたりでしょう。
花岡:タイヤの見せ方です。ホイールアーチはかなり幅、寸法を使っているんです。そしてむしろサイドシルは(ボディの下側に)気持ち引っ込めているぐらいです。サイドシルを出せば出すほどエアロ感があって速そうに見せるという考え方もありますが、実はタイヤの踏ん張りと伴っている方が効果的なので、特にスパーダはそのチューニングに苦労しました。実は70年代のスポーツカーが取り入れていた手法なのです。
—-:正面から見ると樽型になっている。つまりこれまで通りのタイヤの位置をキープしながら、あるいは少し出したことで、相対的にタイヤが踏ん張りスタンス良く見せているうえに、サイドシルは内側に引っ張り込むようなイメージで、タイヤをより見せるようにしているということですね。
花岡:それはクルマの基本的なスタンスの作り方だと実は思っているので、そこに忠実にやったという考え方です。
◆初代や2代目を意識して
—-:新型ステップワゴンを見ていると、初代のシンプルさをすごく感じたんですが、そのあたりは意識しましたか。
花岡:正直しました。2代目をたまに見ると、一周回ってすごくいいなと個人的に感じていたんです。何となくそれのオマージュ、縦長のテールランプが入ったスケッチ等があって、誰もが良いんじゃないかと。社内の評価会などのプレゼンテーションで、あからさまにオマージュしましたとはいわなかったんですが、誰もが空気として感じ取りながら、それはそれで良いよねという流れで出きてきたんです。初代や2代目の完成度は非常に高いと思っていますので、それを使わない手はないなとも思っていました。
もうひとつ、今回のターゲットユーザーはミニバンネイティブです。つまり初代や2代目で育った子供たちなのです。それであれば、ますます良いんじゃないとなりました。
—-:いまおっしゃった初代とか2代目の良さとはなんなのでしょう。
花岡:それが今回のグランドコンセプトにもつながっているんですけれど、クルマが主役ではなく、それがあることで暮らしが良くなる印象があるクルマですよね。リアル充実している家族が持つクルマというイメージ。だから、クルマが主役で、そのクルマを買うとドヤ顔が出来るクルマではなく、このクルマを持ってる家は、ものすごく楽しい暮らしをしてるなと思わせるものを初代、2代目に感じていたんです。ですので、コンセプトが“素敵なクルマ”じゃなくて、“素敵な暮らし”にしたんです。
◆キャラクターラインの断面にまでこだわって
—-:デザイン自体もこのグランドコンセプトを凄く感じさせます。どうしても走り等を意識すると、ウェッジシェイプにしたくなるのですが、今回は見事に水平基調です。その中で、ヘッドライトからリアに向かっているキャラクターラインがとても効果を発揮しているように感じさせています。それは、その下の面の豊かさを感じさせているんです。そのあたりにものすごくこだわりがあるように思います。
花岡:その通りです。極端に線が少ないので、入れる線はもう全部ばかみたいに吟味しました。ですので、そのキャラクターラインのV型の断面なども、随分と吟味しました。
アウターハンドルも、そのラインの一部として考えました。このアンダーハンドルのラインと、スライドレールの黒いスリットとをきれいに繋げていたり、そういう配慮はひとつひとつ行っています。
—-:つまりキャラクターラインを僅か1mmずらしても破綻してしまうデザインということですね。
花岡:ミリ単位、コンマ単位でのチューニングをしています。それこそシンプルなものを作るために、給油口の輪郭とかパネルの継ぎ目とか、バンパーの合わせ方とか、そういうところの勝負になってきます。
また、キャラクターラインの位置も、ヘッドライトとボンネットの割り方、ボンネットのパーティングライン(開口部の線)を逆手にとって、それをクルマ全体に昇華させているという考え方です。要はクルマの機能としては避けられないところなのですから、合理的に格好良く見せるように工夫する。このキャラクターラインでいうと、ボンネットのパーティングラインとうまく相関させていますし、アウターハンドルの線や、スライドレールのシルエットとも、機能上やむを得ず入れる線をデザイン的に昇華させる作業を繰り返しました。
で、アウターハンドルの位置にしても、先代はキャラクターラインをぶち切ってたんですよ。それを切らない位置に下げています。これはLPL(ラージプロジェクトリーダー、開発責任者)もそのこだわりは理解してくれて、格好良い位置に置けといってもらえました。
◆輸入車の中に置いても見劣りしないクルマ
—-:大西さんは全体を見ながらスパーダを担当されました。ステップワゴンのデザインを担当すると決まった時にどう思われましたか。
ホンダアクセス商品企画部デザインブロックスタッフエンジニアの大西優一さん(以下敬称略):ああ、ミニバンかと思いました(笑)。その当時、まだ結婚したてくらいの時だったので、家族のクルマはどんな感じなんだろうな、まだ自分がそういう状況になっていませんでしたので、ドキドキしながら、どうすればいいんだろうというところが大きかったですね。
—-:ではドキドキしながら、どのようなクルマにしたいなと思っていましたか。
大西:いろんな環境、例えば街であったり、山であったり、海であったり、いろんな景色にちゃんと馴染むクルマにしたいなと思いました。
クルマだけが浮いちゃっていて、クルマ単独で置いてあるように見えるのではなく、周りの景色や街にちゃんとマッチした、馴染むようなクルマですね。名脇役ではないですが、そういうクルマにしたいなと思っていました。
ですので、開発中に使った絵や、スケッチを描いて、そういった景色に似合うかをそこに写真ではめ込んでプレゼンテーションするということを繰り返しました。ですのでこれらのスケッチたち(会場に展示されていたもの)のクルマは微妙にいまの形と違います。それは大西や矢口(インテリアデザイン担当の矢口史浩さん)たちが当時描いていた絵をそのまま使っているからです。
開発中に、その方向にしたいというみんなの思いが一致して、若い人達を集めて一緒に作ったものです。
そして、スパーダを初に企画していくにあたって、LPLから、表参道などの路上に駐車出来るスペースに停めた時に、周りに多くいる外車に交じって並んでいても恥ずかしくないミニバンを作ってほしい。しっかりと自分が自信をもって所有出来るようなクルマを作ってくれといわれました。そこが原点ですね。ですのでAIRと違って、どちらかというと街でより引き立つような仕立てにしていますし、当然カスタムという特性上、他社と比較されるという使命があるので、そこはホンダとしてカスタムモデルを作るということを凄く気にしました。
—-:その結果、リアスポイラーをはじめ、フロント周りもかなり印象を変えてますよね。
大西:変えているところはそれ程多くはないんですけど、しっかり変わって見えるようにしました。個性が2つ(AIRとスパーダ)あってそれをしっかりと表現しなければいけません。どこかをはぎ取ったり付け足したりしたように見えるのではなく、両方とも完璧にしなければいけません。そこでAIRは素の良さをしっかりと見せて、スパーダはある程度上質な感じをしっかりと表現しています。その上でパっと見て、どちらを先に作ったかわからないようにしています。
—-:どちらも違和感はありませんね。
大西:それはおそらく僕も骨格を作っている段階から花岡さんの下で一緒にしっかりやらせてもらったおかげです。そこでこのクルマがどういう骨格の成り立ちをしているのかをすごく理解出来ていたからです。ですので、スパーダを作るときも、じゃあこうしたら違和感がなくなるとか、しっかり見せなければいけないところはどう処理しようかなど細かいところのチューニングを、モデラーとチームのメンバーと一緒に考えることが出来たことが大きいですね。
◆伸びやかで上品に
—-:そこで一番こだわったところはどういうところでしたか。
大西:伸びやかに見えるシルエットと、上品な佇まいで、そこは徹底的にこだわりました。ともすればカスタムモデルというと、圧迫感や下品になりがちなのですが、そこはしっかりと見つめなおして、知性のある仕立てや、上品な感じにしています。つまりスパーダとして知性を感じさせるようにしたかったのです。
—-:クルマを一周ブラックククロームで囲みましたね。
大西:そこは無茶苦茶こだわりました。あの断面も本当にモデラーと何回トライしたことか。幅と位置と断面とは何十回もトライしてどれが一番効果的かをやりました。実はこのメッキの上はステップワゴンとして塊をしっかり表現するために意外と絞っています。そこからメッキの下で広げることでスタンスを見せています。このメッキの上と下で少し世界が変わっているのです。どうしてもAIRのようにしっかりと絞ってしまうと、カスタムモデルのお客様が欲している、ワイド感やどしっとしたスタンスが少し足りなくなるので、そこで上は絞って、メッキよりも下で広げてあげることにこだわりました。
—-:そしてブラッククロームがあることで視線は下に行きますよね。
大西:その結果、より伸びやかに、そして重心が下がって見えます。よくエアロモデルやカスタムモデルはサイドビューで見た時の変化点が意外とテールゲートスポイラーだけじゃないかというのが結構あると思うんです。しかし、しっかりとモールを1周回すことで、サイドビューでの見た目の違いも狙っています。
花岡:間違い探しのような差ではないわけです。
大西:ちょっと面が光っているとか、ちょっと変わっているとかではなく。
花岡:メッキのギンギラをやめたというよりも、効果的な配置にこだわったのです。
大西:効果的な(メッキの)量を徹底的に整理しました。その中でほんとうに金属の無垢材を削り出したような断面を作りたかったので、そういうところでもこだわっています。だから、張り付けたようなメッキのような、ペラペラな感じには見せたくはありませんでした。
花岡:今回はAIRとスパーダのどちらにもメッキ部品を使ってますけれども、大西にも金属で作れる形にしてくれとリクエストしました。
大西:例えばロアメッキの断面のアールも、意外と金属でかかっているようなシングルアールだったりします。そうしないと逆に嘘っぽく見えてしまうんですね。そうしたところはみんなで金属っぽい表現って何だろうねと、実際に金属の板とかを曲げてみてこういうアールだとか、面は一瞬反るけれど、そこにかかるハイライトが金属の表情になるとか、話をしながら作り上げていきました。
花岡:プラスチックでしか作れない面構成でメッキ部品を作ってしまうと、どうしてもフェイク感が出てしまうんです。
—-:最後に、このクルマに込めた思いやアピールポイントを教えてください。
花岡:AIRは道具として使い倒せるクルマとして愛してほしいと思っています。好きなようにいじってください。それはステッカーを貼るもよし、アクセサリーを付けるもよし、そういう楽しみ方の余白があるクルマに仕立てたつもりです。“びたいち”ステッカー貼ってほしくないようなクルマにはしていません。それぞれの個性で乗りこなして、あなたの暮らしを良くしてください。そういう楽しみ方をしてほしいクルマです。
大西:まずスパーダを所有する満足感を味わってもらいたいです。上質なクルマに仕上がってますので、ぜひその上質なクルマで上質な生活、暮らしをしていただきたいな、移動していただきたいなと思っています。