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マツダ『CX-50』デザイナーの言葉から紐解く「7つの見所」
「このクルマは2つのメインテーマを探求することから生まれました。マツダだけが提供できるものは何か? 週末に都市から逃れてアウトドアを楽しむという北米で大切にされている価値を、どうすればマツダらしくリスペクトできるのか?」
11月16日に開催されたマツダ『CX-50』のオンライン発表会で土田康隆氏はスピーチの冒頭、こう語った。土田氏はチーフデザイナーとして『マツダ3』を手掛けた後、21年春から米国デザイン拠点であるマツダデザインアメリカの責任者を務めている。CX-50のチーフデザイナーではないが、アメリカで行われた発表会でマツダデザインを代表してスピーチした。
CX-50は北米をターゲットに開発された。トヨタと合弁の米国新工場で生産し、北米で販売する新しいSUVだ。情報はまだ限られているが、ここでは発表会での土田氏の発言を紐解きつつ、CX-50のデザインの実像に迫っていきたい。
【見所1】マツダらしからぬボディカラー
冒頭発言に続いて土田氏は、「このCX-50はドライバーに、アウトドアでしか出会えない新たな場所、新たな経験、新たな挑戦に気付いてもらうためのクルマであり、アウトドアが我々に与えてくれる機会をリスペクトするためのクルマです」とCX-50の提供価値を説明。ここでも「アウトドア」を強調した。
CX-50のグレード展開はまだ明らかではないが、オンライン発表会で披露されたうちの1台はがっちりとしたルーフラックを装備し、ドライブモードセレクトの「Mi-Drive」に「オフロード」や「トーイング(牽引)」のモードを持つグレードだった。土田氏が言うように、アウトドア指向が強いSUVであることは間違いないようだ。
オフロードを走るシーンのCX-50は、「ジルコンサンドメタリック」という新しいボディカラーを纏っていた。土田氏によれば、「アウトドア・スピリットを具体化するために開発したカラーだ」という。
ジルコンサンドの「ジルコン」はジルコニウムという希少金属を含む鉱物のことで、主成分は酸化ジルコニウムと二酸化ケイ素(シリカ)。砂岩などから産出され、産業利用されている。砂型鋳造に使われる砂もジルコンサンドだ。色は一般にベージュ系。CX-50のジルコンサンドメタリックは、ベージュのなかでもほのかにグリーン味を感じさせる。
赤味のベージュはラグジャリーになったりキュートになったりする。逆にグリーン味に振ることで、ナチュラル感やアウトドア感を演出したようだ。さらに、ポリメタルグレーと同じ手法を使い、メタリックでありながら輝度感を抑えてソリッドカラーに見えるようにしている。
言ってみればジルコンサンドメタリックは、砂や泥で汚れても気にせず走れる色だ。それが「マツダらしい」かどうか? ソウルレッドやマシングレーをはじめ、魂動デザインのボディカラーは、きれいに洗車してこそ映える色を揃えてきた。ポリメタルグレーとて例外ではない。
アウトドア指向のCX-50には似合うけれど、マツダとしては異色なジルコンサンドメタリック。それはつまりCX-50がマツダにとって新領域にチャレンジするクルマだということを意味する。これまで積極的に対応していなかったアメリカのアウトドア・ライフスタイルに、本腰を据えて対応するのがCX-50だ。その本気度が、マツダらしからぬジルコンサンドの色に象徴されている。
【見所2】ルーフに荷物を積みやすい全高
「プロポーションを見てください」と土田氏。「CX-50は典型的なSUVより地上高を高く見せることで、長くスリークなプロポーションにしています。お客様のアクティブなライフスタイルを反映して、自転車やサーフボードなどをルーフラックに積みやすくするため、ルーフラインを低くすると共にリヤドアの開放角度を大きくしました」と続ける。
諸元寸法は発表されていないので全高も不明だが、「長くてスリークなプロポーション」というだけあって、SUVとしては背が低そうだ。発表会で流された動画のルーフラックに荷物を持ち上げるシーンを見ると、荷物を持つ人の身長が180cm+αだとしても、ルーフラックを除いたCX-50のルーフ高が1700mmを超えることはないと思われる。
ちなみに同様にルーフラックへのアクセスを重視するスバルの『アウトバック』の全高はルーフレール込みで1670~75mmであり、ルーフ高さは1600mmほど。ただしアウトバックはSUVとは一線を画す背の低さを伝統的な持ち味にしているので、CX-50がそこまでルーフ高を下げるとは考えにくい。
初代CX-5は北米でSUVとして認知され得る外観の存在感と室内広さを周到にリサーチして、そのパッケージングと外形サイズを決めた。2代目=現行型も基本的にそれを踏襲しており、全高は1690mmだ。CX-50は全長と全幅がCX-5より大きいはずだから、全高を下げても「SUVとして認知され得る存在感と室内広さ」は保てる。CX-50のルーフ高は1650mmほどだろうか?
【見所3】超ワイドなボディ。全幅は2m?
ルーフ高にこだわりたくなるのは、全幅がかなりワイドに見えるからだ。フロントビューの写真を見ると、それはもう超ワイドスタンス。グリルの縦横比はマツダ車のなかでいちばん横長で、ヘッドランプが妙に小さく思えるほどだ。そしてバンパー両端の黒い縦長ガーニッシュがワイド感をさらに強調する。
オンライン発表会で土田氏はCX-50を斜め後ろから捉えた画像を見せながら、「これは私の好きなアングルのひとつ」とした上で、次のように語った。
「CX-50は非常にワイドなショルダーと、スーパーワイドなトレッドを持っています。(それらによる)力強いスタンスがオンロードとオフロードの能力を強調し、そのスタビリティ感がお客様のやむことのないチャレンジ精神に結び付いて、どこにでも行けるという気持ちにさせるのです」
未発表の全幅について、アメリカでは「CX-9より広い」という報道がある。『CX-9』も北米専用車で(生産は日本の防府工場)、全幅は1970mm。CX-50の全幅はほぼ2mということかもしれない。もっともジープ『グランドチェロキー』は1980mm、フォード『エクスプローラー』が2004mmだから、北米のミッドサイズSUVとして2mの全幅は標準的と言えるわけだが…。
【見所4】圧巻のワイドフェンダー
視点をボディサイドに移すと、ドアのショルダー(ベルトライン下の断面)はとくに分厚いわけではない。土田氏の言う「非常にワイドなショルダー」は、前後フェンダーのショルダーのことだろう。
ドアに対して前後フェンダーが、これまでスーパーカー以外では見たこともないほど張り出している。圧巻のワイドフェンダーだ。
ベルトラインが前方のグリルへと延びて、その外側にフロントフェンダーのショルダー(上向き面)が広がる。フロントフェンダーの前面を斜めに削ぎ落としたところに、ヘッドランプと縦長ガーニッシュがあるわけだ。
リヤにも縦長のエアアウトレット風ガーニッシュがあるが、リヤビューはフロントほどワイド感を強調していない。リヤフェンダーを強く絞り込んだ基本面を折れ目なくリヤエンドパネルまでつなぎながら、それを少し外に膨らませたところにガーニッシュを配置。リヤコンビランプは基本面から出っ張らせることで、控えめにワイド感を醸し出す。
斜め後ろからCX-50を見ると、前後のフェンダーの張り出しがよくわかる。これこそがCX-50のエクステリアの最大の特徴であり、顧客の「チャレンジスピリット」を喚起する最も大事な要素でもありそうだ。だからこのビューが土田氏の「好きなアングル」なのだろう。
【見所5】魂動デザインの変化球
「マツダの洗練されたデザイン言語にラギッドさや悪路走破性の感覚を調和させるのは、我々にとってチャレンジでした」と土田氏は語る。「マツダの洗練されたデザイン言語」とはもちろん魂動デザイン、とくにマツダ3で始まった第2世代魂動のことを指すと考えてよいだろう。
そのキーワードは日本の伝統的な美意識に基づく「反り」、「余白」、「移ろい」だが、実は「反り」と「余白」は第1世代と第2世代の架け橋としてデザインされた2代目=現行CX-5でかなり実現されていた。具体的に言えば、前輪の上から後輪へと延びるハイライトの「反り」、そして線の要素をできるだけ少なくして生み出す「余白」だ。
そこでマツダ3とそれに続く『CX-30』は「移ろい」に工夫を凝らした。ボディサイドの映り込みがS字を描き、それが見る角度によって(つまりクルマの動きにつれて)移ろう。第2世代魂動を世に問う直球のデザインだった。
しかし魂動表現の幅を広げるべく、『MX-30』では「移ろい」を封印。映り込みが移ろわなくても、魂動本来の狙いである「生命感のある動き」を醸し出せるデザインにチャレンジした。第2世代魂動の変化球だった。
「映り込みをベースにした面作りは我々のデザインの大事な特徴です。今回もそれを使いながら、オフロードに出掛けたくなるような要素をナチュラルに融合するデザインを創案しました」と土田氏。
しかしCX-50に「移ろい」は、あまりなさそうだ。発表された写真や動画を見る限り、少なくともボディサイドにS字を描く映り込みはない。大きく張り出した前後フェンダーに挟まれたドア断面は、どちらかと言えば単調だ。
もちろんドアからフェンダーにかけては連続感を持たせているが、そこでは映り込みの「移ろい」よりも、「オフロードに出掛けたくなるような要素」と土田氏が言うフェンダーの強い張り出し感が優先されているように見える。CX-50はMX-30に続く第2世代魂動の変化球と考えてよいだろう。
【見所6】新型CX-5との共通点は魂動の進化?
再びフロントに戻ると、先ごろ商品改良した新型CX-5との共通点があることに気付く。まず魂動デザインではお馴染みのグリルのシグネチャーウイングだ。
マツダ3や『マツダ2』、CX-30など第2世代魂動のマツダで車は、シグネチャーウイングがヘッドランプの下へ勢いよく延びていた(MX-30はシグネチャーウイングがないので例外)。
しかしCX-50のシグネチャーウイングはヘッドランプ下の途中で止まる。新型CX-5もそうだ。新型CX-5の椿貴紀チーフデザイナーによれば、「シグネチャーウイングを外に広がるのではなく、奥へ(エンジンルームへ)入っていくイメージにした」という。
オンライン発表会で披露されたCX-50のシグネチャーウイングはブラック。これまで黒いシグネチャーウイングはなかったが、新型CX-5も20Sの「ブラックトーン・エディション」と25Sの「スポーツ・アピアランス」でそれを採用している。
ヘッドランプを4灯式に進化し、外側と内側それぞれにL字型のDRL(デイタイムランニングライト)を配したところもCX-50と新型CX-5に共通する。内側より外側のほうが少し大きい。これはCX-50/新型CX-5のリヤコンビランプも同じだ。
こうしたCX-50と新型CX-5の共通点が魂動の進化を示すものだとすれば、次に現れるニューモデルのデザインを占う一助になるのかもしれない。
【見所7】不変の人馬一体コクピット
「インテリアではドライバー・オリエンテッドなコクピットがマツダの”人馬一体”のドライビング哲学を表現しています」と土田氏。「キーとなる要素はすべて、縦長のエアベントも含めて、ドライバーに対して左右対称に配置しました。これによってドライバーを運転に駆り立てるような、クルマとの一体感を醸し出しているのです」
マツダは2014年発売の最終型『デミオ』(現マツダ2)から、エアベントをメーターの左右に対称配置している。その意図はドライバーが前方を注視する軸を明快に示すこと。デミオや『ロードスター』などでは丸形だったエアベントは、マツダ3/CX-30ではメーターバイザーの形状に溶け込む形状に進化。MX-30では水平基調のインパネの広がり感を強調するため、(やや左右非対称だが)長方形のエアベントをインパネに埋め込んだ。
CX-50は左右対称のエアベントを縦長にすることで、そのぶんインパネ助手席側の広がり感を増した。ドライバーにとっての“人馬一体”と助手席側の快適性を、より高次元で両立させたと言える。これもまた次へのステップとして見逃せないところである。
第2世代魂動の最新版であるCX-50は、魂動デザインがさらに進化する可能性を示唆している。次なるマツダのニューモデルはFRラージプラットフォームのセダンかSUVか? 魂動は直球か変化球か? 期待を膨らませて、そのときを待とう。