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【ホンダ ステップワゴン 新型】きれいな箱を作りたい…開発責任者[インタビュー]

  • 《写真撮影 雪岡直樹》
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  • 《写真撮影 雪岡直樹》
  • 《画像提供 ホンダ》
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ホンダは1月7日、新型『ステップワゴン』のコンセプトとデザインを公開。先代から大きくイメージを変えた新型について、開発責任者にその思いを聞いた。

◆ど真ん中のファミリーカー
—-:ステップワゴンはホンダの大きな柱になるクルマです。その開発責任者としては経験も必要になると思うのですが、蟻坂さんはこれまでミニバン系はご担当になったことはありましたか。

本田技研工業四輪事業本部ものづくりセンター完成車両開発統括部車両企画管理部LPLシニアチーフエンジニアの蟻坂篤史氏(以下敬称略):日本のミニバンは初めてです。ただし、アジアの『モビリオ』と『BR-V』は3列でしたので7人乗りのクルマはタイの研究所で開発はしていました。

—-:ではかなりその経験が生きて来ますね。

蟻坂:はい。例えば1列目、2列目、3列目の視界を考えて、シアタースタイルにすることによって、後部座席の人たちは快適になるということは勉強していましたので、そういう知見は今回にも生かされています。

—-:ではこのステップワゴンの開発責任者に決まった時にどう思いましたか。

蟻坂:ど真ん中のファミリーのクルマだなと思いました。その時に考えたのは、自分の子供はもう大きいものですから、その子供がちっちゃかった頃のことです。やはり子供が小さい頃はミニバンを買うな、そのときはどのように使ってたかなとか、そういうことを思い出してましたね。

そのとき私はジェットバックをクルマにつけて、必ず移動するときはいっぱい荷持を積んでいたんですね。そんなことなど色々考えながら企画をスタートさせました。

◆普通のクルマを作りたい
—-:ステップワゴンは長い歴史があるクルマです。蟻坂さんは担当するにあたって、新型をどういうクルマにしたいと思われましたか。

蟻坂:私が目指したのは、ドアを開けた瞬間に乗り込みたくなるクルマです。とにかく嫌味がないクルマにしたかった。とにかく変な癖がないクルマ。本当に普通のクルマにしたかったんですね。

最近競合も含めて内外装ともいろいろついていたり、手が入っていたりしますよね。でも結局ミニバンは箱なんです。“ライフエクスパンダーボックス”というコンセプトにしたものそういう意味なんです。でも、最近のミニバンは箱なのになんでこんなにしちゃうんだろうな(ごちゃごちゃしたデザインなど)っていうのがありましたので、普通にきれいな箱を作りたいと思いました。

◆デザインやシートレイアウトが見合わせ理由
—-:新型を開発するにあたり、先代の振り返りもやられたと思います。先代ユーザーや競合車を購入した方達からステップワゴンの魅力や購入見合わせ理由などはどういったものだったのでしょう。

蟻坂:購入された方は、わくわくゲートはほんとうに良い、とても便利だと評価してもらえました。あとは、動的性能もとても高評価をいただいておりました。ただし、動的性能は、購入重視点の上位項目じゃなく結構下の方なんですね。そこは飛び抜けて良いんですけれども、それが購入意欲には結びついていなかったのです。

また、パッと見たときのリアの非対称デザインが、かなりリジェクトリーズン(否定的要素)になっていました。あとは、クルマが小さく見えるというのも結構ありました。ですから今回は、大きく見せようという話をしたのと、シートアレンジが少ないこともリジェクトされていた理由でしたので、そのあたりは絶対にやらなければいけないなと考えました。

ただしホンダだけが格納式の3列目のシート(ダイブダウン)があり、これは高評価でしたのでそのまま踏襲しています。

—-:今回のターゲットユーザーの調査結果を見ると、約7割が従来の高級、オラオラ、スタイリッシュさを求め、残りの約3割がナチュラルなイメージと2つに分かれていると説明がありました。もともとのステップワゴンユーザーはどちらを好んでいたのでしょうか。

蟻坂:難しい質問ですね。ひとついえるのは、歴代ステップワゴンの中でいうと、最初の頃のステップワゴンが良いという意見はかなりありました。そしてだんだんステップワゴンではなくなって来ていると、ステップワゴン好きの人からはいわれるのです。つまり先代ステップワゴンを購入しているユーザーは、どちらかというとステップワゴンだから購入しているのではなく、実用的だと感じて買っていらっしゃる方が多いみたいですね。格好良いから買うのではなく、単に実用的だから買っている。ですので、もともとのステップワゴン好きからは、先代はステップワゴンではないとまでいわれました。

そこで、大きく見えて、かつどこに停めても違和感のないクルマを目指したのです。先代以前にお乗りの方々の中には先代を買わないで新型を待っている人もいるのですね。そういう人たちの買い替えも促したいと思っています。個人的には4代目ステップワゴンに乗っていた人たちは、結構このクルマは響くと思いますよ。

◆わくわくゲートを採用しなかったわけ
—-:このセグメントにおいても、デザインは購入重視点としては非常に高いのですね。

蟻坂:高いです! かなり上位ランクです。価格と同じくらいのレベルでデザインが来るでしょう。上位3つに入るでしょうね。

—-:そこと居住性が先代は弱かったと。

蟻坂:はい、完全なネックになって、結構苦戦したのです。

—-:そうすると新型に関しては先代全否定にも聞こえますね。

蟻坂:先代モデルは良いクルマなんですよ。だからもったいないと私は思っています。わくわくゲートを使っていた方は本当に良いといっているのですが、実はその訴求の仕方が最初に響かなかったと考えています。本当だったらCMで狭いところで荷物を入れているような、そういうことが出来るようなことをアピールすれば良かったんですね。

なのに、子供たちがいっぱい乗り降りするところを流してしまった。本当はそうじゃない、そのために使うものじゃない。そのあたりの訴求がちょっと違っていたと思います。そのCMを放映してしまったものだから、営業サイドとしてもどうやって説明していいかわからなくなってしまった、何に使うんだろうって。ですから今回はそういうことがないように、徹底的に営業サイドとも、装備等に関してどのように使うのかという勉強会などもずっとやりました。

—-:その結果、テールゲートは普通のバックゲートにしたわけですね。

蟻坂:もうひとつ、わくわくゲートはとてつもなく重かったんですよ。ドアにドアが付いているので、かなりの剛性がないと出来ません。実はこれをやめただけで、ボディを合わせると20kg近く軽くなりました。

その結果、テールゲートが軽くなりましたので、AIRはパワーテールゲートの採用はしませんでした。スライドドアやパワースライドドアの場合ですと、お客様は、買い物の荷物はスライドドアを開けて後ろの席に置くんですね。わざわざテールゲートは開けないんです。そうすると基本的に大きな荷物を入れない限りは、スライドドアで事足りるはずなので、あえてAIRはつけませんでした。ただし、色々欲しいという方もけっこうこれから増えるのかなという考えもありますので、スパーダには装備しています。この後はお客様の反応を見ていこうと思っています。

—-:テールゲートを全部開けるのではなくリアウインドウだけ開くパターンもありますね。

蟻坂:はい、これも考えました。ただ、女性に色々話を聞くと、これは服が汚れちゃうというんですね。開けた時にリアゲートに服がくっついちゃうので、女性は嫌がるのです。雨の日だと濡れちゃいますし、絶対触っちゃうんですよね服が。そういう話を聞いて、なるほどなと思いまして、そういうこともあってこれは採用しませんでした。

—-:そのリアゲートのウインドウにステップワゴンのイラストが入っているようですね。

蟻坂:はい、実は私は知らなかったんです。いつの間にかインテリアデザインの矢口(インテリアデザイン担当の矢口史浩氏)が色々なものを入れていました(爆笑)。なので別に好きにやってって。こういうのがSNSなどで拡散されて、いわばミッキーを探せのようになってくれたらいいなと思っています。本当にいろいろなところに仕込んでいますよ。

◆乗っている人が格好良く見えるように
—-:AIRとスパーダはどういう人たちに乗ってほしいと考えていますか。

蟻坂:どういう人たちに乗ってほしいというよりも、このクルマから出てくることによって、あの家族、センスいいなって見られるようになってもらいたいんですよ、要はクルマが格好良いではなく、乗ってる家族が格好良い。そういうクルマを目指しています。

グランドコンセプトは“素敵な暮らし”です。そういう暮らしをしていただきたい。そのためのアイテムになればなと思って、そういう気持ちで作っています。

—-:クルマが主役ではなく、家族が主役ですね。

蟻坂:はい。そのためにこのクルマを道具として使ってほしい。で、その道具となるためにどうすればみんなが使いやすくなるかなということを考えています。ですから乗員がみんな快適でいられること。そこはメンバーに徹底しましたね。ですから室内のサイド部分で前から後までソフトパッドを通すということも、とにかく絶対にお金じゃない、3列目まで絶対に通そうといいました。実はテールゲートのライニングにも通したいといったんですけど、設計者からさすがにそれはやめてくださいといわれてしまいました(苦笑)。

企画時点ではお金を管理している側から3rdシートのサイド部分のソフトパッドは外しませんかという話もやっぱり来たんですよ。しかしダメだ、これを抜いちゃったら、3列目がまた乗りたくない席になってしまう。そう思われたらもう駄目だと。結構この手のクルマは、おじいちゃんおばあちゃんが3列目に乗っていただくことが多いんですね。その時に自信をもって3列目に座ってくださいっていえるような座り心地、乗り心地にしたかったんです。

—-:実際に乗るのが楽しみですね。

蟻坂:実は私は、テスト系の人間ですのでお楽しみという感じですね。先代ステップワゴンの動的性能は正直にいって、他車には全く負けていません、最高です。ただ先代モデルでは3rdシートの乗り心地がちょっと悪かったんですね。なので新型では改善しています。本当は動的な部分も語りたいのですが、今回はコンセプトとデザインということなので、ご期待ください。

—-:最後に何かいい残したことがあればぜひお話しください。

蟻坂:これはお願いしたいことなんですが、やはりこれからの時代は、こういうクルマがあるべきだということを普及していただきたいなって思っています。

—-:こういうクルマというのは。

蟻坂:自然でごてごてしていないクルマです。デザインするときにデザイナーに、高級輸入SUVが並んでいる表参道などで、その間に入っても全然恥ずかしくないクルマにしてほしいといいました。そう見えるクルマが出てくることで、これからの時代が始まるんだと思っています。

昨今の家電製品を見ると、昔と違ってごちゃごちゃしていなくてすっきりしていますよね。iPhoneもいったん丸くなりましたが、いまはしっかりとスッキリさせています。その結果、やっぱりiPhoneはこうだよなって思わせています。

このステップワゴンはつまり原点回帰なんですよ。初代に原点回帰をして現代風にアレンジしたのです。例えば『ミニクーパー』は、いつの間にか全然違うクルマのようになりましたが、やっぱりしっかりと面影を残していますよね。それがあのクルマの正常進化だと私は思っています。そういうことをこのステップワゴンでもちゃんとやりたかったのです。

—-:そうするとそれはステップワゴンらしさに繋がると思うのですが、それは何ですか。

蟻坂:それはきれいな箱です。