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【三菱 デリカD:5 新型】ギラギラ系?オラオラ系?このデザインが三菱の“顔”になる[デザイナーインタビュー]
ビッグマイナーチェンジした三菱の『デリカD:5』。今回の改良で特に注目されるのが、大胆にイメージチェンジしたそのフロントマスクだ。『アルファード』や『ヴェルファイア』のように押し出し感の強い“ギラギラ系”となったデザインのねらいとは。
三菱デザイン本部プロダクトデザイン部デザイン・プログラム・マネージャーの大石聖二氏に、進化した「ダイナミックシールド」のポイントを聞いた。
◆ダイナミックシールドをマイナーチェンジでも取り入れる
—-:今回の大幅改良にあたってデザインとしてはどのようにしようと考えたのでしょうか。
大石聖二氏(以下敬称略):三菱としてのデザインコンセプトはこれまではすごく希薄だったのですが、現在ダイナミックシールドというデザインコンセプトを打ち出しています。当然デリカにもどこかのタイミングで入れなければいけない。その点はデザイン開発をしている際に、並行して検討していました。
今回はビッグマイナーチェンジなのですが、ダイナミックシールドのコンセプトは採用しなければならない。そこで、デザインの過程でヘッドランプの位置を下げたところ、他は大きく変更しなくてもこのコンセプトが上手くはまったのです。モデルチェンジではないのでヘッドランプユニットの開発(形状変更)までは行わないのが通常ですが、今回はドアやリアクオーターパネルなどの変更はせずとも、デザインが成立しましたので、ヘッドランプ等の新規開発を含めてフロントマスクをごっそり変えさせてほしいと要望し、実現させました。
—-:新型のデザインコンセプト、“TOUGH TO BE GENTLE”というワードについて具体的に教えてください。
大石:デリカの歴史を振り返ると、コテコテのSUV、コテコテの悪路を走るというイメージだと思いますが、いまやもうそういう時代でもありません。毎週末に悪路を走って、という人がいるかというとおそらく皆無です。趣味がキャンプだとしても、オートキャンプ場に家族と行ってキャンプをするくらいでしょうし、そこに行く間は普通の舗装路を走っていって、最後に少し悪路があるかもしれない程度です。
さらに、現在のデリカD:5のポジショニングである、カジュアルかつアウトドアという他のミニバンにはない独自のポジションですが、実際にはミニバン市場において3%しかシェアが取れていないというのが現実です。このままでは生きていく道がないということになります。もちろんこのまま作り続けるというのもひとつの手だとは思いますが、所詮月々1000台のクルマのためにどこまでできるのか、それだけの議論になってしまう。そこで裾野を広げていかなければいけないことを踏まえての、“GENTLE”なのです。
また、トヨタ『アルファード』や『ヴェルファイア』みたいなクルマには(デザイン的に)抵抗があるというお客様も少なからずいるという意見も聞いていますので、そういう人たちがいわゆる王道のトヨタ車や日産車ではないこのクルマに、少しでも取り込めればいいなというのが正直な思いです。
◆絶対に外せないタフさ
—-:そうはいってもデリカD:5のブランドイメージを考えると、ワードにも入っているTOUGHさは強調していかなければいけないと思います。
大石:その通りです。TOUGH TO BE GENTLEのTOUGHの部分は絶対に取れません。つまりデリカD:5らしさ、ヘリテージは忘れてはいけない。そこはデザインする上でも意識しています。
—-:新しいデリカD:5では「らしさ」をどのあたりで表現されているのでしょうか。
大石:一目見てわかるタフさといった部分は、圧倒的なSUV性能で、そこは先代からは落ちてはいません。例えばアプローチアングルを多めにとるとか、車高が高いままキープするということはそのまま継承しています。
すごく意識したのはデリカD:5は良くも悪くもワイルドなクルマだとは思うのですが、一方ではちょっと安っぽかったり、煩雑だったりというところもありましたので、そういう部分は払拭して、上質に見せよう、値段相応には見せようとしています。一番良い例がインパネです。
これまではすごくプラスチッキーで、Gショックなどを好きな人には受けますが、一方で女性目線で見たらやはり安っぽいインパネにしか映りませんでした。道具感はいいのですが、でも道具ではないということです。その点間違いなく今回のインパネやシートの方が受けると思いますし、今、お財布を握っているのはお母さんですから、そのお母さんの同意が得られないとハンコを押してくれません。実際に家族でクルマを見に来てくれて、インパネが駄目だから買ってくれなかったというお客様もすごくたくさんいます。そういう部分でのネガは徹底的に払拭していこうと。そこで今回の大幅な変更につながったのです。
—-:逆に、あえて変えないところもあったのでしょうか。
大石:常々いっていることなのですが、悪くないところは変えなくてもいい、今使えるものは使っていけばいいと思っていますので、今回も変える必要のないところは変えていません。
すごくわかりやすい例でいえば、ミニバンは今7人乗りが売れています。シートレイアウトでは2-2-3のパターン。ですが、デリカD:5は8人乗りがメインで売れています。おそらく2列目までを居住空間として使い、3席目は跳ね上げて使っているというユーザーが他社よりも多いのかなと。
そうすると、デリカD:5を理想型としてくれている人はそのレイアウトを変えたらむしろファンが逃げていく方向になるので、そこは変えないでおこうと。もし変えたとしても億単位のお金がかかりますので、変えなくてもいいところは変えない。そのぶん安全面や性能面、静粛性など変えなければいけないところは徹底的にお金をかけて変えていったのです。GENTLEという部分はそういうところにも含まれてもいます。
◆顔を「厚く」立派に見せたかった
—-:今回ボンネットの位置が高くなっていますが、もともとその方向で考えていたのでしょうか、それともヘッドライトを上げるためにこの形になったのですか。
大石:その両方です。歩行者保護の要件が厳しくなっているので頭をちょっと上げなければいけなかったのは事実です。一方、デザインからするとそれを逆手にとって、ポジションランプは極力高い位置にしたい、ヘッドランプはバンパーに納めたいということを考えていくと、ボンネットを上げざるを得なかったという、たまたま両方の思惑が一致した結果です。
また、デザイン面ではフードを高くして顔を厚く見せたかったということもあります。現行は薄くてワンモーションに見せたかったというデザインだったのですが、今回はワンモーションに見せるのではなく、それよりも顔を厚く立派に見せたかったのです。
—-:フロント周りではグリルの中のパターンが凝っているように見えますが、これはどういうものなのでしょう。
大石:これは変形六角で、ひし形の両端を切ったような形です。実はこれ、今後多用されてくるデザインなのです。これもここに至るまでには今までにないくらいたくさんのパターンを作り、さらに女性の意見も聞きながら、違和感がないとか生理的に受け付けないというようなことがないようにデザインしました。
女性は意外と全体ではなくディテールを見て嫌いだと生理的に受け付けなかったりすることがありますので、そのあたりは考えてデザインしていきました。
◆この顔つきは今後につながるデザイン
—-:フロントのデザインはこれまでの生産車では例がないようなデザインですが、過去に三菱のコンセプトカーとして提案されていましたので、少し見慣れた印象があり、それが良い影響を与えるようにも思います。
大石:確かにそれはありますね。最近のコンセプトカーは全部バンパーにライトを置いてデザインしているのですが、それで不評だったらむしろ変えていたと思います。このタイプを複数やっていますが不評なモデルはありませんし、むしろ好評です。また、機能的にも優れていることの裏付けが取れましたので、このままデビューしました。これが新世代のダイナミックシールドコンセプトになるのです。
実は国内ではデリカD:5が初めてなのですが、インドネシアで『エクスパンダー』がこのランプレイアウト(上にポジションランプ、下にヘッドランプ)のフロントフェイスでデビューし、ものすごく好評で恐ろしいほど売れています。
—-:新型のデリカD:5として、この顔つきになるまでにはかなり紆余曲折があったと想像しますが、いかがでしょうか。
大石:何が大変だったかというとマイナーチェンジなのにランプまで変えて、しかもその開発までするということです。サプライヤーさんからユニットを提供してもらってそれを使って作るのであれば割と簡単なのですが、このような縦型のユニットはこれまでになかったので完全に一から開発しなければいけませんし構造的にも凝っていますから、相当なお金がかかりました。今から考えてもよくやったなと思います(笑)。
実はそこはPQ(パーシブド・クオリティ)という思想が日産から入ってきたからこそできたといっていいでしょう。PQ、感性品質とは、見た目だけではなく、チリの合わせ方やぱっと見の印象で上質に見える、高く見える、高級に見えるというところをポイントとしていまして、その点は現行に比べたら格段に進化をしています。
—-:また、細部の凝縮感が高まっているようにも感じますね。
大石:細部の緻密な作り込みなどは、今回相当やりこんでいます。今まで正直そういう作業をあまりしていなかったのですが、それはPQ部門がなかったということもあります。そのあたりも現在の國本本部長(デザイン本部長の國本恒博氏)になってからすぐに行われましたので、これから先に出てくるクルマは全てPQを踏まえて出てくることになります。