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ワゴンRスマイルとワゴンR、立ち位置の違い…スズキ開発責任者インタビュー
スズキから『ワゴンRスマイル』が発売された。『ワゴンR』程度の車高を持つスライドドアという企画から誕生したこのクルマの開発責任者に、その誕生背景や特徴について話を聞いた。
◆キーワードは「ワゴンR程度の車高」
—-:初めにお伺いしたいのは、そもそもこのクルマの企画はどういうきっかけで始まったのかということです。
スズキ商品企画本部四輪商品第一部チーフエンジニアの高橋正志さん(以下敬称略):軽自動車の中でもスライドドア車の市場が伸びていて、現在では半分以上になってきています。一方スズキの軽自動車の中でスライドドアの比率はどうかというと、他社に対してスライドドア車は取れておらず、半分の比率は出せていないのが現状です。つまり軽自動車市場でお客様が望んでいるスライドドアの需要が伸びているにも関わらず、我々としては商品が足りていないのではないか、そう考えたのがきっかけです。
実は4年ぐらい前からそういう話が出だしていました。他社からも色々出て来ていますので、やはりスライドドア車を新商品で投入しようというのが始まりです。
—-:では、高橋さんがこのクルマの責任者になった時にどのように思いましたか。
高橋:まず立ち位置が非常に難しいと思いました。どういった立ち位置で、どういったキャラクター付けにしたらいいんだろうというのはすごく悩みました。大きなお題目として軽自動車のスライドドアでしたので、まずは企画をするにあたり調査を開発と並行して進めました。
実際にワゴンR所有者の4割ぐらいがワゴンRくらいの車高のスライドドアが欲しいという結果でしたし、軽ハイトワゴンを次に買いたいと思っているお客様も同じく4割ぐらいの方が、スライドドアが欲しいといっていました。そこからこのクルマのコンセプトがワゴンRの高さのスライドドアを作ろうということになったのです。
◆シートポジションはスペーシア並みに
—-:実際にはワゴンRよりも50mmほど高くなりましたが、それはどういったことからでしょう。
高橋:実は前席のシートポジションを70mm高くして『スペーシア』と同じにしているのです。なぜそうしたかというと、スライドドア車はスーパーハイトワゴンが需要を引っ張っていて、スズキで『スペーシア』があります。また、登録車ではミニバンやSUVが増えており、そういったクルマは着座ポイントが高く、視界が少し上から見晴らせる感じになることから、安心して運転出来るいるという声をたくさん聞いています。もちろんクルマの重心は上がり、ハンドリング的にはどちらかというと不利になるという背反はあるのですが。
そういったことから前席はワゴンRのシートポジションではなくスペーシアのシートポジションを採用しました。70mm高くなったので車高も70mmにとしてしまうと、スペーシアになってしまい意味がなくなってしまう。そこで前席を高くしたものの、必要な室内寸法をギリギリ確保して、45mmという全高に納めました。
◆ワゴンRの意味とは
—-:ではなぜワゴンRという名前がついているんでしょう。
高橋:例えば“スマイル”という新型車名にすると、まずスマイルとはどんなクルマかという説明から始めなければいけません。このクルマの特徴であるワゴンRの高さ感を持ったスライドドアというポイントを一番わかりやすくするためには、ワゴンRという名前をつけることによって、ワゴンRスマイルはワゴンRくらいの高さなんだとお客様に直感してもらえるだろうという判断です。
—-:それであれば、ワゴンRをスライドドアにすればいいという気もしますが。
高橋:ワゴンRが果たさなければいけない使命はスライドドアだけではありません。ワゴンRは発売してから30年弱経っており、昔は『アルト』ぐらいのセダンサイズが軽自動車の標準といわれていましたが、いまはワゴンRぐらいが普通のサイズ(車高)です。その上のスーパーハイトワゴンがいずれ主流になってきて、そのうちそちらが普通になるかもしれませんが、我々としてはワゴンRぐらいの車高が軽自動車を買われるお客様の中では、価格も含めるとスタンダードだろうなと考えています。
また、スライドドア系とかスーパーハイトワゴンというのは、当然乗車される方も多いですし、いろいろな使用シーンを想定します。軽自動車の価格が高くなるというのは、我々もよくいわれますが、やはり軽自動車は軽自動車としての商品性はある程度保っておかないといけない。そう考えると、ワゴンRはベーシックな価格も含めた基本性能をしっかり押さえるべきですから、こういったワゴンRの立ち位置を考えると全部スライドドアにしてしまうのはやはり違うなということです。
—-:つまり価格が高くなってしまうというところが大きいですか。
高橋:そうですね。それ以外にも重量や燃費など他の基本性能にも影響はしてくると思います。そういった価格とか使い勝手などの商品のバランスを考えた時に、やりワゴンRというのはお客様の期待される価格の範囲内でというところを持たせていたいのです。
一方で、ワゴンRスマイルが出たことによって、本来のワゴンRはどういう位置づけで行かないといけないか、我々はもっと真剣に次のモデルをどうするべきかというのは考えていかなければいけないだろうと思っています。
—-:確かにワゴンRとワゴンRスマイルとの位置関係は難しいですね。
高橋:軽自動車にとって価格はすごく大事な要素です。通常大は小を兼ねるのでスペーシアをたくさん販売して、そのぶん少し価格を抑えるという考えもあるのですが、大は小で兼ねられないというところもあります。例えば室内が広いスペーシアですと、空調をうまく効かせるようにサーキュレーターを装備しなければいけませんし、子供の送迎を考えると27インチの自転車を乗せるために必要なラゲッジスペースを確保することもあります。
しかし、そういったシチュエーション、子育てが終わると、その大きさはいらないけれども、スライドドアは欲しいというお客様がいらっしゃるのです。そこでちょうどいい全高、つまりワゴンRくらいにすると、少し室内はコンパクトになりますので重量も軽くなり、空力も良くなりますので燃費も向上します。価格に関しても、出来るだけ装備もスペーシアと差別化して、吟味してギリギリの価格設定に抑えました。
その価格は確かにワゴンRとスペーシアの間なんですけど、やはりなかなか中間というわけにはいきませんでした。スライドドアというとそれだけで皆さん自動ドアを期待されるので、どうしてもそのぶんの差額が発生してしまいます。でもスライドドアをいらない方にとっては、やはりベーシックな軽自動車、本来の軽自動車を期待される方に向けて、ベーシックなワゴンRが必要ですから、そこでこのクルマとの住み分けが出来ているのです。ですからこういったことはもっとわかりやすい商品作りをしていかないといけないと考えています。
◆街中メインでターボはなし
—-:ワゴンRスマイルのターゲットユーザーを教えてください。
高橋:メインは子育てを卒業された世代、スペーシアの大きさが必要じゃなくなった世代とまずは考えています。それともうひとつ大きいのは若い方。まだ結婚される前、あるいはヤングファミリーで、大きな中高生用の自転車がいらない世代です。小さいお子様のところと、結婚される前の若い方も、実はスライドドアの需要は結構多いのです。皆さんミニバンで育っているので、スライドドアは普通なんですね。むしろ我々はヒンジドアが普通だと思っていますが、実際にインタビューした時に、ヒンジドアって何ですかといわれて……。スライドドアの方が普通で便利じゃないですかというような若いお客様が実際にいらっしゃいました。そういう感覚なんですね。若い方はスライドドアの便利さが分かっていて、その方に響くスタイリングとして、いままでの実用的な箱型ではないことは意識しています。
—-:実際の使用シーンは街中を中心にということですか。
高橋:はい。
—-:あえてそこで遠出などをある程度割り切ったのは価格を抑えたいからでしょうか。
高橋:もちろん遠出も出来るように、オプションでアダプティブクルーズコントロールなども用意しています。ただし、NAですのでフル乗車ですとちょっと非力なところは出るかもしれません。これはあえて『ハスラー』やスペーシアとの差別化の一環です。スペーシアはファミリーで乗って遠出をするのには十分なエンジン出力を持っていますので、そういったキャラクターの差別化という意味で、メインは街乗りで考えました。
—-:ターボが搭載されるとかなりロングクルーズは楽になるでしょうね。
高橋:我々もターボの設定は企画初期の段階でどうするかはすごく悩みました。当然設定した方が、お客様の選択肢が増えますのでいいだろうなというのはあったんですけれども、現在のターボの設定があるクルマでその割合は、一番多いハスラーで3割前後。スペーシアでだいたい25パーセント。ワゴンRでは10%行かないくらいです。もちろん設定しているグレードなどにもよるのですが、そういったことを考えると、今回ワゴンRスマイルにターボを設定するとどのくらいになるか……。そこで、実際のお客様を想定して、今回はまずはNAで。そのぶんNAはお客様が普通に使って、しっかり燃費が良いねと感じていただけるようにしていく方向で考えました。
—-:因みにセカンドカー重要というところは狙ってますか。
高橋:はい。軽自動車ですので。ヤングファミリーの方ですと多分メインにミニバンをお持ちで、遠出する時はそちら。普段の通勤や奥様の買い物、送迎などはワゴンRスマイルのようなスライドドアのクルマがあったらいいだろうなと考えています。
子育てを卒業された後のお客様では、もしかしたらファーストカーということもあるかもしれませんが、まだまだ50代から60代の方だとメインのクルマをお持ちで軽自動車をセカンドカーにするという方が多いと思います。そういった中では奥様に乗っていただいて旦那さんも場合によっては乗ることが出来るようなスタイリングを考えています。