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待望のレクサス高級ミニバン『LM』日本販売に向けて練るべき戦略
「ラグジュアリー・ミニバン」ではなく、「ラグジュアリー・ムーバー」の頭文字をネーミングとしたレクサス初のミニバン『LM』。日本では未発売だが、筆者はこの路線はどんどん進めていくべきだと考えている。
◆アジアの中でのレクサス『LM』
なぜなら、これが欧州でもアメリカでもなく、アジア発のプレミアムブランドとして世界をリードしてく成長分野であり、レクサスがより強固なポジションを得るためのツールになり得ると感じているからだ。
まずはLMに関しておさらいしておこう。同車は2019年4月に初公開され、現在では中国、香港、マカオ、台湾、インド、そしてタイやインドネシアなど東南アジアで販売されているが、日本では売られていないモデルだ。
ベースはトヨタ『アルファード』、そしてトヨタ『ランドクルーザー』に対するレクサス『LX』のように、ボディなどを共用しつつ、内外装をレクサス級に仕立てたモデル、と考えれば分かりやすい。
LMとアルファードは、ボディシェルやパワートレインが共通だ。一方で異なるのが内外装の仕立て。レクサス仕様の外観になっているだけではなく、より立派で快適な2列目を備えるなどラグジュアリーテイストが全面的に引き上げられている。もちろん静粛性もだ。
◆欧州とアジアではミニバンへ対する概念が違う
そんなLMがアジア各地で用意されたのには背景がある。実はアルファードが絶大な人気を持ち、富裕層の移動車として売れまくっているのだ。オーナーが乗るのは2列目で、いわゆる「ショーファードリブン」である。
メルセデスベンツ『Sクラス』などのハイエンドセダンではなくアルファードが選ばれる理由は、快適性が高いという前提の上に、室内が広いからに他ならない。この空間を一度知ると、もうセダンには戻れないのだ。
また、アジア地域では欧州と違って移動平均速度が低いからミニバンボディで不利になる高速安定性が重視されないという事情もある。高速道路をかっ飛ばして時間を節約するより、渋滞を快適に過ごすことのほうが大切なのだ。モバイルオフィス的に車内での仕事もしやすい。アルファードを好んでいるのは富裕層だから、彼らが「さらに上」を求めるのは当然の話。そこで登場したのが、アルファードの上を行くLMなのだ。
欧州のプレミアムブランドに「高級ミニバン」という概念はない。なぜなら背の高いクルマはあくまで「荷物運搬車の延長」であり、富裕層が好んで乗るクルマというポジションになり得ないと考えられていたからだ。メルセデスベンツに『Vクラス』というバンがあるけれど、あくまでちょっと高級な多人数乗用車であり送迎などが主な使い方。2列目のオーナーの快適性を追求したクルマとは言い難い。商用車がベースで、完全に乗用車設計のアルファードとは乗り心地や乗降性に大きな差があるのも、考え方の違いである。渋滞が多くて移動速度が低いアジアならではの、ショーファーカーの新しい形。LMは、これまで欧州のプレミアムブランドにはなかった新感覚のリムジンなのだ。
◆レクサス色をさらに強め、アルファードとの明確な差別化が必要
アジア発、日本発のラグジュアリーカーとして、おもてなしの心に満たされたLM。これまで、レクサスは欧州ブランドをベンチマークとし、それに追いつけ追い越せというモチベーションで進化してきた。しかし、将来において進むべき道は、欧州勢のラインナップに捕らわれない独自の提案ではないだろうか。そう考えたとき、LMの持つ意味は大きいし、今後はさらにLMのような欧州勢とは異なる展開で世界中の富裕層に独自の提案をしていくのが発展の近道に思える。
気になるのがLMの日本発売があるかどうかだろう。現行モデルはないと予想する。なぜなら、用意しても日本では「アルファードのレクサス版」と思われ、レクサスらしさが霞んでしまう可能性が高いからだ。
しかし、この先アルファードがフルモデルチェンジを迎えた後には、その新型をベースにエクステリアの差別化を増してレクサス色を強めた次期LMを国内展開する可能性は少なくないと感じている。その際は、パッと見ただけではアルファードと共通のボディとは思えないほど、スタイルの差異を強めるのではないだろうか。