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進化する自動車安全技術、 4メーカーの違いは?…ホンダ、トヨタ、日産、スバル 比較解説
11月1日、プレリリースされた新型ホンダ『インサイト』。特徴のひとつが全グレードにホンダセンシング(Honda SENSING)が標準装備されること。車種によってはオプション設定となるADAS(高度安全運転支援システム)機能のいわば「全部入り」だ。
ADAS機能の一部は、ブレーキやステアリングの操作に介入するものがあり、ベテランドライバーの中には、この違和感を敬遠する人もいるが、衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)の認知・受容はかなり進んでいる。各社の制御技術もだいぶこなれてきており、新車に自動ブレーキや渋滞対応のオートクルーズは必需品ともいえる。
そこで、インサイト他、近い車格モデルの安全運転支援機能について、主に仕様や技術的な特徴の比較ポイントをまとめ、各車の機能について紹介する。取り上げる車両は、新型ホンダ インサイト、トヨタ『プリウス』、日産『リーフ』、スバル『WRX S4』だ。
◆ステレオカメラと単眼カメラはどちらがいい?
ADAS機能はメーカーによって名称や細かい制御が異なる。また利用している技術も微妙な違いがある。単純な横並び比較は難しいので、まず、主だったADAS機能に採用されている技術・方式について簡単に整理する。使っているセンサーによる制御の違いなどがわかれば、似たような名称の機能の違い(夜間ではどうなのか、人や標識は識別しているのか、など)がわかりやすい。
衝突被害軽減ブレーキなどと表現される、自動ブレーキは、単眼カメラとミリ波レーダーを併用するタイプが現在主流となりつつある。夜間など視界の影響を受けるカメラをレーダー(電波)が補うため、より細かい状況認識が可能だ。カメラは単眼の他、ステレオタイプもある。単眼とステレオカメラの違いは、ステレオカメラのほうが視野角が広い、横方向の検知範囲、画像対象物に深度(どちらが奥か)がわかるといった点だ。現在、画像補正、画像認識技術が進み、夜間や雨天でも状況認識できる範囲は広がっている。緊急の自動ブレーキだけなら、カメラのみの制御でも問題ない。
◆ミリ波レーダーとLiDARの違い
一般に、レーダーは200メートル前後の中距離の障害物(先行車)の検知、対象までの距離測定に利用される。電波なので雨天、夜間の影響は受けにくい(水分は電波を遮るので、暴風雨や深い水たまり、水はねの影響は大きい)が、ガラスを透過してしまう他、人間などの検出は服装によって困難となる。また、対象物の有無は判定できるが形状はわからなく、対象の角度によっては検知できない(ステルス機の原理)。
アダプティブクルーズコントロール(渋滞支援付)などレベル2以上の自動運転となると、カメラやレーダーに加え、LiDARと呼ばれるセンサーも必要となる。LiDARは、赤外線などレーザー光を利用した空間スキャナだ。照射した範囲を点群と呼ばれる細かい点で立体的に把握する。物体の形状や位置がわかり、周囲を3Dモデル化できる。計測範囲はレーダーより小さく(近距離)になる。
コーナーセンサーや誤発進抑制装置などに利用されるのは超音波センサー(ソニックセンサー)だ。音波を使うので遠くには飛ばないが、近距離の障害物の検知に向いている。小型化が容易で安価であるため、バンパーなどにいくつも付けやすい。
各種センサー技術の概要は以上だ。これを踏まえて、各車のADAS機能、安全運転支援機能をみていくことにする。
◆インサイト…ホンダセンシング
新しいインサイトには以下の10機能が標準装備されるという(名称などは各社の表記を利用する:以下同)。
・衝突軽減ブレーキ(CMBS)
・誤発進抑制装置
・後方誤発進抑制機能
・歩行者事故低減ステアリング
・路外逸脱抑制機能
・LKAS(車線維持支援システム)
・渋滞追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)
・先行車発進お知らせ機能
・標識認識機能
・オートハイビーム
ホンダセンシングの衝突軽減ブレーキ(CMBS)は、単眼カメラとミリ波レーダーを併用したタイプだ。誤発進抑制装置は前方と後方の2種類に対応しているが、手元の暫定版の資料によれば、前方はレーダーによるセンシングで、後方は「センサー」による障害物の検出となっている。後方は一般的な超音波センサーだとすれば、壁がガラスでも発進抑制と警告を発してくれるものだ。逆にミリ波レーダーはガラス(ショーウィンドウ)などをどう検知するかはわからない(ガラスの面積やガラスの先の物体による。ガラスの向こう側に物体があれば検知できる可能性はある)。
歩行者事故低減ステアリングは、他ではあまり聞かない名前だ。CMBSでもスペック上は前方車両だけでなく歩行者や対向車も検知できるとしている。CMBSとの違いは、車線逸脱時の制御に歩行者検知を加えたことだ。
10~40km/h走行時、車線を外れて歩行者と接触しそうになると、音とマルチインフォメーションディスプレイで警告し、ステアリングへの介入が入り回避を支援するという。単に車線逸脱を警告するだけではなく、向かっている方向に歩行者がいて、衝突の危険があれば回避行動をアシストする。動作条件として、直進であることワイパーを連続動作させていないことや、歩行者として認識できない(1m以下、しゃがんでいる、荷物などで体が隠れているなど)といった制約もある。
路外逸脱抑制機能も面白い。これも車線を逸脱しそうになった場合、歩行者事故低減ステアリングとほぼ同じ動作をする。つまり、音と画面による警告とステアリング操作への介入(回避支援)だ。さらに状況によってはブレーキ操作も支援してくれる。歩行者事故低減ステアリングと路外逸脱制御機能は、車線逸脱を警告してくれるLKASに、歩行者検知の機能とステアリング・ブレーキへの介入制御を加えたものといえる。
標識認識は、カメラ画像から道路標識を読み取り、制限速度などをマルチインフォメーションディスプレイに表示してくれる。高級車にしかなかった機能だが、これも標準装備となる。
◆プリウス…トヨタセーフティセンス
プリウスには「Toyota Safety Sense 衝突回避支援パッケージ」として次の4つがラインナップされている。
・プリクラッシュセーフティ
・レーンディパーチャーアラート(ステアリング制御付)
・オートマチックハイビーム
・レーダークルーズコントロール(全車速追従機能付)
プリクラッシュセーフティは、一般的な前方の車両検知だけでなく車道にはみ出た歩行者も検知する。センサーは単眼カメラとミリ波レーダーだ。
レーンディパーチャーアラートは、カメラ画像により車線逸脱を検知して、警告と回避操作のアシストを行うもの。レーダークルーズコントロールは、単眼カメラ+ミリ波レーダーで渋滞時も含めて前車と設定車間距離を保ちながら、追従走行、停止、再発進などを自動化、またはアシストしてくれる。
誤発進抑制装置に相当する機能は、インテリジェントクリアランスソナーとして用意されている。車両の周囲に12個の超音波センサーを配置し、障害物との接触を警告。ブレーキ制御も行うので、衝突・接触を回避できるようになっている。低速時には、急なアクセル操作をキャンセルするので、前後の誤発進抑制になる。
プリウスの場合、上記パッケージとクリアランスソナーはグレードによってオプション設定となる。E、S、Sツーリングセレクションといったグレードはカタログやオプション設定を確認してほしい。
◆リーフ…サポカーS・インテリジェントモビリティ
日産は、自動ブレーキ、車線逸脱抑制、誤発進抑制といった安全機能パッケージを「サポカーS」と呼んでいる。対応している機能やレベルによってサポカーSワイド、サポカーSベーシック+、サポカーSベーシックの3つに分類している。サポカーSワイドが、歩行者対応の自動ブレーキなど、インサイトに標準装備されたホンダセンシング機能にほぼ準ずるものとなる。
なお、プロパイロットは、日産のインテリジェントクルーズコントロールとステアリング制御機能を合わせた制御を指す用語。これに自動駐車支援(プロパイロットパーキング)など自動運転につながる技術の総称がインテリジェントモビリティとなる。
リーフの場合、Sグレード以外がサポカーSワイド対応車種となる。Sグレードではプロパイロット、車線逸脱抑制支援、誤発進抑制などはオプション設定になる。ただし、フロントカメラを利用した侵入禁止検知・警報は全車種に備わっている。
インテリジェントエマージェンシーブレーキ(衝突軽減ブレーキ)、インテリジェントクルーズコントロール(前車追従対応クルーズコントロール)、インテリジェントレーンインタベーション(車線逸脱抑制装置)は、インサイトやプリウスと機能は同様と思ってよい。歩行者対応自動ブレーキ、渋滞の自動停止、自動発進なども対応しているし、レーン逸脱時のステアリングアシストも行う。
実現している機能に大きな違いはないが、これらの制御は単眼カメラによって行われている。ミリ波レーダーは利用していない。レーダーなしでは性能が心配かもしれないが、2016年のJNCAP予防安全性能評価で、プリウス68.1ポイントに対してリーフ(旧型)67.6ポイントと0.5ポイントの差しかない。評価としてはともにASV++ランクだ。
リーフの特徴には、自動駐車をアシストしてくれるプロパイロットパーキング(Sグレードには設定なし、Xグレードはオプション)がある。アラウンドビューモニター(フロント・リアカメラ、両サイドミラーの広角カメラによる周辺映像)の機能で、検知、または指定したスポットにボタン操作(必要なブレーキ操作)で自動駐車してくれる。プリウスも同様のオプション設定(インテリジェントパーキングアシスト)がある。
◆スバルWRX S4…アイサイトVer.3
スバルは「アイサイト(EyeSight)Ver.3」で、自動ブレーキ以下、車線逸脱抑制、誤発進抑制、前車追従型クルーズコントロールなどをサポートしている。WRX S4の場合、アイサイトVer.3はGT、GT-S、STI-Sport全グレードに標準搭載される。
アイサイトVer.3の各種機能も、他の3車種とほぼ同等の仕様となっているが、主な制御は日産と同様にカメラがメインとなって行う。ミリ波レーダーは使っていない。日産との違いは単眼カメラではなくステレオカメラという点。アイサイトは2008年に市場投入されてから10年もの間使われ、改良も加えられている。理屈の上ではレーダー併用のほうが精度が上がりそうだが、カメラのみの制御でも、自動ブレーキの制御はそれほど劣るわけではない。JNCAP予防安全性能評価では68.9ポイント(2016年 インプレッサ2.0i-L EyeSight)を獲得している。リーフ、プリウスより高いポイントだ。
S4には、インサイトと同様、自動パーキングアシストの機能はないが、アイサイトツーリングアシストという日産でいえばプロパイロットに近い自動運転支援機能がある。高速道路上で車線を維持しながらのオートクルーズ機能に、ステアリングアシストを追加したものだ。ハンドルに手を添えている必要はあるが、カーブなりのステアリング制御が行われる。介入の度合いはプロパイロットより弱いが、“自動運転ではなく安全運転支援のための機能”というスバルのこだわりだ。
なお、各車のADAS機能、安全運転支援機能は運転時の疲労軽減や危険回避をサポートするもので、作動にも一定の条件がある。過信せずに安全運転を心がけることは言うまでもなく重要だ。