注目の自動車ニュース
【ホンダ シビック 新型】「爽快シビック」はいかにして誕生したのか…開発責任者[インタビュー]
新型ホンダ『シビック』のグランドコンセプトは“爽快シビック”だ。なぜ“爽快”なのか、さらには今回のモデルチェンジで何を実現したかったのか。開発責任者である本田技研工業 四輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発統括部 車両企画管理課 LPLチーフエンジニアの佐藤洋介氏に話を聞いた。
◆ホンダ・イコール・シビック
—-:佐藤さんはこれまでどんなクルマを担当されて来たのですか。
佐藤洋介氏(以下敬称略):直近では、初代の『ヴェゼル』を担当していました。その前はアジアのクルマ、『ブリオ』ですとか、『USオデッセイ』も担当しました。
—-:今回シビックを担当することが決まった時にどう思いましたか。
佐藤:ホンダの基幹機種でもありますし、自分の中でいえばホンダ・イコール・シビック、シビック・イコール・ホンダと感じていましたので、一度はやってみたかったクルマです。ただ、本当に出来るものなのかなというプレッシャーも正直ありました。
ご存知の通り、シビックをベースに色々な派生車にも繋がっていきますし、技術においてもシビックが先頭で色々やっていくこともあり、その重さみたいなものもあります。また、収益、ビジネスとしても成立させなければいけませんし、お客様や社会のニーズにもしっかり応えていかなければいけません。さらに、国内だけではもちろんありませんので、グローバルでどのようにしてお客様に届けていくかというところなどもあり、非常にプレッシャーではありました。
いままでの機種は、ブリオやUSオデッセイなど、地域に限定したクルマでした。確かにヴェゼルはグローバルで色々やりはじめましたけれど、ヴェゼルはやりやすかったのです。初代のヴェゼルの時は、小型のSUVがそれほど市場に出回っておらず、自分たちがやりたいクルマを作る楽しさみたいなものがありましたので、すごく楽しく出来たという記憶があります。プレッシャーよりも楽しさの方がヴェゼルにはあったわけです。
シビックは来年で50年になりますので、長い伝統もあり、またその伝統をどうやって崩さないで更に磨きをかけるかというところで、ヴェゼルとは全く違う異次元の重さを感じました。
—-:佐藤さんがおっしゃる「シビックの伝統」とは何ですか?
佐藤:シビックはお客様のニーズと、社会との調和。そして環境に対してしっかりと応えていかなければいけないクルマです。お客様のニーズだけではとても対応出来ない時代になってきています。シビックの台数はグローバルでもそれ相応にありますので、環境規制への対応などを考えると、台数が多いぶん、社会に対するニーズもしっかりと応えていかなければいけません。それがホンダの象徴であるシビックの役割なのです。
社会ニーズとお客様のニーズ、その中でもシビックというのは、スポーティでダイナミクス性能も兼ね備えていてといったところが根底にある、そういう若々しさがシビックにはないといけません。さらにいえば先進技術も入れ込んでいく。それがシビックだと感じています。
—-:いまの時代のホンダを一番表しているクルマといえますね。
佐藤:そうです。僕の中ではそれがシビックであり、ホンダの象徴だと思っているのです。本質をまさに体現したクルマであり、無駄をそぎ落とし、本来の走る、操る楽しさを表現出来ているクルマです。SUVはアイポイントが高いので、特に女性には安心して乗ってもらえるなど、いまこの時代の価値として非常に良いことだとは思いますが、クルマの本質として、安心して乗っていただくにはやはりこういう背の低いクルマもあっていいのかなと思っています。
◆乗った瞬間に「アイムバックホーム」
—-:さて、11代目シビックをどのようにしたいと考えていましたか。
佐藤:50年の歴史があるシビックですからまずゼロからというよりは、10代目まであるシビックの過去をしっかりと振り返って、いいところはちゃんと取り入れよう、それがシビックのヘリテージをしっかりと取り入れていくということだと考えました。
その時にシビックの、特にホンダのDNAを感じたのは、3代目ワンダーシビックで、人中心に開発が進められていて、グラッシーなキャビンと軽快なボディに魅力を感じましたし、インパネなどの上面の造形も綺麗に作られていて、窓もスクエアで視界も良い。そういったところは、人中心に磨き上げられていました。それらをこれからの時代の若い世代となるターゲットユーザー、ジェネレーションZにも相応しいクルマにしていこうとブラッシュアップしていくところからスタートしました。
—-:開発においてはユーザー訪問を含めて様々な調査をしたそうですね。
佐藤:はい、ユーザー調査自体はよくやると思うのですが、同じ方のところへ1日から2日かけて伺って生活スタイルを見るなど、クルマと生活がどのようにその人に溶け込み、何でこのクルマを選んだのかを、生活を通して、家具やいろいろな家電製品を通して見てきたのです。この時代になってくると、クルマだけでこうだというスタディをする時代でもないでしょう。生活に対してどう溶け込みシームレスなこの社会の中で、なんでこのクルマを選んでいるのか。どういうきっかけで、どういう嗜好性があるから、という本質を極めないと、選んで頂けないと思うんですね。そういう新しい(開発に向けての調査の)動きなのかなと自分の中では思っています。
—-:実際のクルマの使用シーンも含めて調査をしているということですね。
佐藤:そうです。そこまで見ていかないと、色々なクルマが溢れていますし、そしてコモディティ化もされてきていますので、そういった世の中で、どうやって特徴を出していくかがポイントになるのです。そういう意味でも必要かなという気はしています。
—-:そこではいろいろな気づきがあったと思いますが。
佐藤:特にターゲットユーザー(ジェネレーションZ)では、華美なものなどは一切排除して、シンプルに生活の質を高める人たちが非常に多いことが分かりました。しかも自分らしさを強く主張するわけではなく、自然体で主張する人たちなのですね。ですから例えば時計ひとつとっても、華美な時計や高級時計ではなく、自分らしさを表現する欧州のシンプルな時計が好まれていました。
面白かったのが、シビックとプレミアムブランドのクルマのどちらを買おうかなと考えたときに、プレミアムブランドは内装にピアノブラックを多用し、テカリのある塗装だったので、指紋や手垢がつきやすくなるんですね。そうすると、ちょっとしたことで何だか「怒られた感」があるというのです。それに対してシビックの場合は、乗った瞬間に「アイムバックホーム(I'm back home)」っていう言葉をいただきました。まさに自分の家に帰ってきたような。内装も自分のためにあしらってくれたような、そんなシビックを私は欲しくて買ったんだっていってくれたんですね。
10代目シビックでもそういう流れを脈々と受け継がれています。当然この11代目でもそういうところはしっかりと守っています。いまの若い世代の人たちも、特に華美なモノではなく、自然体で落ち着いていられるような、心地よい空間、それはアプロ―チャブル・親しみやすさという言葉でも使っているのですが、そういう方向で、開発していきました。
◆爽快は、いまのホンダを表している
—-:そこから“爽快”という言葉が生まれたのですね。
佐藤:初代シビックの存在をジャーナリストから、“一服の清涼剤みたい”と言ってもらいました。それは爽やかな空間価値を提供してきたというところもありますので、初代でもそういうことをしているんだなぁ、爽やかな気分にさせてくれるクルマを提供したのかと思いました。そんなクルマを11代目でも提供していきたい。ホンダのDNAである「人中心」にすべてを磨き上げて、乗る人全員を爽快にすることで、日々の暮らしが前向きになり、そうすると好奇心がわいて、どんどん世界が広がっていく。それが最終的に乗る人全員の喜びにつながってくといいなという思いで“爽快シビック”と考えてやってきました。
—-:爽快というワードを聞いた瞬間に、『ヴェゼル』もイメージしました。これも開放感とか爽快さをアピールしています。これは今のホンダ車の流れなのですか。
佐藤:そういうところも少しはあるかなと思いますが、爽快といっても色々あります。だいたい一発目に出る言葉が「爽快視界」です。『フィット』から爽快視界といい始めていますが、ヴェゼルでは、よりガラスがスクエアで四角く、ピラーも張り出し、空調もそよ風を感じさせていますので、それも爽快です。そういったことも含めて、ホンダの考え方に通ずるものがちょっとあるかなと思います。フィットからだいぶその傾向が出て来ているかなと感じています。
—-:実際にシビックのスイッチ類を操作すると触感が良くなっていると感じます。
佐藤:ヒーコンパネルや、ノブ類もそうなのですが、上級の家電を色々見ています。開発している初期に上級家電とはなんぞやみたいなことを考えました。だいたいデザインの開発の時は全体から始めるのですが、今回は面白いことにピンポイントで、本当の最初からノブなどアウトレット周りの構造から始めました。そこには、すごくこだわりをもってやりました。そういう(上級家電のような)価値を生み出すために、自分でもデザイン家電製品を買いました。機能とデザインの融合みたいなところが自分の中で感じるところがありましたし、どうやって内装を築いていくかの参考にしていったのです。
◆走りの楽しさに磨きをかけて
—-:11代目シビックを開発するにあたって、先代の振り返りもされたと思います。その結果として評価が高かったところはシビックの強みであり、評価が低かったところは弱みとして捉えられるでしょう。その辺りはどのようにお考えになって、どのように反映されたのですか。
佐藤:先代では、ダイナミック性能に関してはすごく評価され、世界のCセグメントをリードするまでに至ったプラットフォームでした。シビックですから、操る喜びはしっかりと引き継いでいきたいということで、プラットフォームも全域に渡って、先代をベースにブラッシュアップしています。
一方で、走り出しの際の音色や、リニア感、つまり音と走り方のバランスみたいなところは少し足りていないかなということがありました。そういったところは直していって、クルマと一体となって走る楽しさを、引き上げていきました。