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【ホンダ レジェンド 新型試乗】自動運転を「目指したメカニズムである」ということ…渡辺陽一郎
◆条件付きで「アイズオフ」と「ハンズオフ」を可能にした
『レジェンド』が新たに搭載したホンダセンシングエリートは、高速道路上を渋滞によって50km/hに達しない速度で走る時、自動運転車として機能するものだ。国土交通省の定義では、レベル1と2はシステムをドライバーが監視する運転支援機能だが、ホンダセンシングエリートのレベル3ではシステムが監視を行う。従って作動中はドライバーが前方から視線をはずす「アイズオフ」が可能になった。
また50km/h以上の高速域では、アイズオフではないから前方を注視するが、ステアリングホイールを保持しない「ハンズオフ」が行える。予め高度車線変更支援機能をオンにしておくと、先行車に追い付いた時、後方確認を促す案内を行って自動的に追い越し車線へ移る。この後、追い越しを終えると自動的に元の車線に復帰する。これらの機能はドライバーの疲労を軽減させ、安全な走行に貢献する。制御はとても滑らかだ。
ただし路上の白線が薄かったり、日陰になる場所では、時々ハンズオフが解除されてステアリングホイールを保持する必要が生じた。開発者によると「今までのテストで、車間距離を自動制御するクルーズコントロールまで解除されたことはないが、ステアリングの手離しが可能なハンズオフの解除は時々起こる」という。
試乗中に実感したのは、ドライバーの運転姿勢が大切なことだ。運転席の背もたれや座面の角度が通常の運転状態と同じであれば、ハンズオフ時に両手を膝の上に置いても、車両から求められた時には即座に運転操作に戻れる。
ところがハンズオフになった時、背もたれを少し寝かせてルーズな姿勢を取ると、助手席に座っているような「クルマ任せ」の気分になってしまう。ドライバーを監視するモニタリング機能の許容範囲内でも、車両から運転操作を求められた時に差が生じると感じた。ハンズオフの作動中でも、運転姿勢は変えず、自分自身に最小限度の緊張感を与えておく必要がある。
◆完全なアイズオフはできるか
渋滞時のトラフィックジャムパイロット作動中のアイズオフも、ドライバーが前方から視線をはずせる範囲は、インパネ中央の最上部に設置されたナビ画面が限界だ。インパネの最上部であれば、ドライバーの視野に前方の様子も入り込むが、視線がさらに下がると前方がまったく見えなくなるからだ。
例えば通常のクルマで、高速道路上を40km/h前後で走行中、道路脇の防音壁が前方で淡いピンク色に変色したとする。自車から見えない前方を走る複数の車両がブレーキングを行い、ブレーキランプが反射して、防音壁を淡いピンク色に染めた。
多くのドライバーは、この時点で、前方でトラブルが生じている可能性を認識する。そこで速度を少し下げて、先行車との車間距離を広げる。そうすればこの後、先行車が急ブレーキを作動させても、自車はその必要がない。後続車から追突される危険も抑えられる。
このような経験に基づく対処は、ホンダセンシングエリートでは難しい。先行車が急ブレーキを作動させた後、自車も同様に急な減速を行うから、自車が先行車に追突しなくても被害を受ける危険が生じる。
従ってトラフィックジャムパイロット作動中でも、完全なアイズオフはできない。視覚の何割かは前方に振り分け、前述のような危険をドライバーが察知する必要がある。だから視線をはずす場合でも、インパネ最上部のナビ画面が限界なのだ。
そうなるとナビ画面の造りも重要になる。画面が見にくいとドライバーは注視するが、逆に高精細に過ぎても、画面への集中度が高まる。適度に前方への関心を向けられる余地を残したバランスの良い画面が求められる。
◆自動運転を「目指したメカニズムである」ということ
国土交通省のレベル2とかレベル3というステップ状の線引きも、単純で分かりやすい半面、実際の使われ方には適さない。本来はスロープ状のシームレスな進化になるからだ。
ホンダセンシングエリートについては、渋滞時のアイズオフは可能にしたものの、視線をはずせる範囲は前述の通りインパネの最上部までだ。今後はもう少し視線を下げたり、作動上限速度を65km/h程度まで高めることが可能になるだろう。
このような進化はレベル分けでは示すことができず、また自動運転でもない。ホンダセンシングエリートは、自動運転を目指して、運転支援機能が進化を続ける過程で登場したメカニズムだ。ホンダセンシングエリートを自動運転レベル3としたのでは、明らかに誤解を招くので、この呼称の使用は控えるべきだと思う。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★
渡辺陽一郎|カーライフ・ジャーナリスト
1961年に生まれ、1985年に自動車雑誌を扱う出版社に入社。編集者として購入ガイド誌、4WD誌、キャンピングカー誌などを手掛け、10年ほど編集長を務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様に怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。