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【インフィニティ QX55】FXみたいだね、は誉め言葉…デザイナー[インタビュー]
インフィニティが発表した『QX55』は、2003年にデビューした初代『FX』のスピリットを受け継いでデザインされたという。そこで担当のデザイナーに詳しく話を聞いてみた。
◆パワー&ジャパニーズエレガンス
—-:初めにQX55のデザインコンセプトから教えていただけますか。
インフィニティ グローバルデザイン担当シニア・デザイン・ダイレクターの中村泰介さん(以下敬称略):簡単にいうとスピリットオブFXです。言い換えると、パワフル・エレガンス、パワー&ジャパニーズエレガンスとなります。
—-:そのジャパニーズはどの辺で表現されていますか。
中村:日本のDNAにインスパイアされている、例えばグリルのデザイン(日本の折り紙細工にインスパイアされた)を始め、インテリアのマテリアルの使い方では、例えば黒ですがリッチな黒を作りたいと考えました。レザーとブラックオープンポアウッドという本木を使っていますが、そのウッドだけを目立たせるのではなく、ものすごくミニマルな表現の中で、すごくリッチな黒を表しています。もちろんそれ自身が日本というわけではありませんが、考え方としてなるべくシンプルにした上で、一番強い部分を強調するようなところが日本をイメージしています。これはこのクルマだけではなく常にそういう考え方を持ってデザインしているのです。
◆いまの時代に合わせたFXを作ること
—-:ではスピリットオブFXとして、一番のこだわりは何でしょう。
中村:FXはシンプルでスポーティー、そしてパワフルなデザインでした。なおかつそれまでなかったカテゴリーのクルマ(クーペSUV)ですので、とても目立つ存在、すごくシンボリックなものだと思っています。
実はデザイン開発をしていく中で、常にFXという言葉はデザイン本部の中でもよく出てきました。例えばFXみたいだねといわれたらすごく良いこと。まだFXみたいじゃないねといわれたら駄目だというぐらいの、記号性、意味を持っているのです。
当然このクルマはSUVクーペといっていますので、カテゴリー的にはFXが一番近いですね。スピリットオブFXとはどれだけエモーショナルなものが出来るかということですが、QX55とFXのハードウェアのアセットを見るとそこは全然違います。FXのスタイリングはとても格好良く出来ていると思いますが、室内や、ラゲッジルームも狭いなどネガティブな部分もありました。それらを踏まえ、新しい時代でFXを作るためには、新しい世代のお客様のニーズを満足させるものにしたい。ユーティリティの部分と、スタイリッシュな部分のバランスを取りながら、よりモダンなレシオで作ったのがQX55になるのです。
ですから、室内はものすごく広くなりました。外見はとてもエモーショナルでスポーティーに出来ていますが、荷室の使い勝手や、後席の組み合わせを含めて非常に“使えるクルマ”になっています。昔のFXは割とストイックで、本当にクーペをSUVにしただけというクルマでしたが、今回のターゲットである、いまの個性的なクルマが欲しいが、自分のソーシャルライフも満足させたいという人にとってはずいぶんと違うクルマだと思います。その辺りのお客様のマインドシフト、ライフスタイルが変わった部分もこのクルマの最終的なディメンションや、パッケージングに大きく影響しています。
◆チャームポイントを考えて
—-:このクルマのデザインの話が来た時に、中村さんとしてはまずどのようなクルマにしたいと思いましたか。
中村:FXという言葉が一番大きいと思います。まずこのパッケージングがあって、狙っているお客様がよりパーソナルで若いジェネレーション、プレファミリーですので、割と自由な発想が出来ます。そういったことから、どこが一番チャームポイントになるのかなというのをまず考えました。それが最初のとっかかりです。
そして、どれだけボディーとキャビンのレシオみたいなものが適切に出来るのかというところに力を入れました。なるべくボディーを分厚く見えるように、ボディーカラーの部分を増やしたり、キャビンもぎゅっと潰して、どこまで潰せばちょうどいいルーミネスになるのかを見ながら、そういう基本的なパッケージングの比率でまずはFXらしいベースを作るというところから始めました。
ボディーカラーを増やす工夫として、フェンダーについているパーツが大きく影響しています。そうすることによってボディーが厚く見えるので、相対的にキャビンがより薄く見えるのです。実際の寸法は、キャビンはしっかりあるのですが、見た時の比率では、ものすごくスリークに見えるようになっています。
—-:チャームポイントはウィンドウグラフィックスとボディーのバランスということですか。
中村:大きくいうとそうです。それがものすごくはっきり見えるのがリアクォータービューです。そこからクルマを見た時に、ものすごく張ったトレッドとショルダーがたっぷり見えて、キャビンが後ろに向かってぎゅっと絞られています。しかしクーペみたいにキャビンがぺったんこではなく、それなりのしっかりとしたボリュームがついていることが、スポーティーでパフォーマンスを感じさせながらも、“使えそうなクルマ”だと同時に感じられるでしょう。そこが一番チャーミングのところです。
◆パワフル表現とスリークさ
—-:フロントフェンダー周りもものすごく特徴的ですね。特に横から見ると、ボンネットの開口部の上側は少し内側に入りながら弧を描くようになっています。これはどういう意図なのでしょう。
中村:クルマが引き締まったように見せるボディーの表現は、ボディーの基本のボリュームがどこにあって、タイヤがどれだけ出っ張っているかだと思います。基本のボディーの面からホイールアーチが少しつままれた形で(上方向に)張り出している部分ですが、基本のボディーがタイヤの幅に対して少しキュッと(内側に)締まっている表現になっています。これがないとクルマがすごくオーバーボディー、太って見えてしまうのです。そこでボディーをなるべく押し込んで、しかしタイヤのはみ出しはしっかりと表現したいとこの表現になっています。
これはフロントもリアも同じです。リアはその塊をより大きくして、よりマッスル感を表現しています。フロントはヘッドランプからボンネットのオープニングライン、ドアのキャラクターラインに流れ、そこにドアハンドルが乗っているというものすごく長いラインにすることで、フロントのノーズが長いということを強調しています。それがリアの筋肉の部分に融合しているので、長いフロントとリアという大きな2つのボリューム構成になっているのです。
—-:ドアハンドルのところのキャラクターラインもかなりエッジが効いていますね。その下の影を上手く作って、かつ、リアフェンダーのボリュームに持っていっていうのはテクニックを感じます。
中村:そうですね。これがパワフルな表現と、どれだけボディーがスリークに長く見えるかということを表現しようとして、その結果このようになりました。そこがインフィニティのセクシーな面や、あまりジオメトリックではなくてものすごくヒューマンな感じになっていると思います。
ボディーカラーも断面を強調出来るものになっています。“ダイナミックサンストーンレッド”という、3コートで、トップコートは赤いティントが入ったクリアーです。下地のベースレッドは割とピンクっぽく、その上にクリアーレッドを塗装する構成ですので、ものすごく深みのある塗装になっています。ですから、陰影が出来るショルダーラインやボディー下の方のスカルプチャーも含めて、ものすごくアーティスティックに強く表現出来ているのです。
—-:SUVテイストを出すためにはクラディング(ホイールアーチ周りの黒い部分)は有効なのでしょうか。
中村:この目的は2つあります。ひとつはストーンチッピングからボディーパネルを守ること。もうひとつは離れて見た時に、タイヤの大きさ感に効いているのです。タイヤ径はいろいろな制限があって、あまり大きくも出来ませんが、それをいかに力強く見せるかというサイドビューのグラフィックのトリートメントと、このクラディングがあることでホイールベースが若干短くも見えるのです。従ってクルマがちょっとアジャイルにも見えるという視覚的効果もあります。
◆葉脈で前後方向の流れを表現
—-:インテリアもとてもシックにまとまっていますね。
中村:黒いウッドがチャームポイントで、インパネ周りの木目の葉脈も縦方向に入れて、ドア側に上手く流れています。そのパターンで前後方向の流れを作っているのです。ウッド自体は水平方向に入っているのですが、その葉脈のパターンでスポーティーさ、ダイナミックさを表現し、前進感を強調出来ないかと(葉脈の縦方向の流れを)採用しました。直接目に飛び込んでくるディテールではありませんが、サブリミナルな効果を生んで、ふっといい感じ、リッチな感じを醸し出している要素になっているでしょう。
—-:メーター部分は意外とシンプルにまとめていますね。最近のクルマは横長でスクリーンを全面に出しています。
中村:メータークラスターをドライバーの中央に置くことで、ドライバーが座った時に(ドライバーを中心として)左右対称感を狙っているのです。センタークラスターの周りに赤いレザーが入っていますが、それが左右非対称にセンターコンソールに流れています。そうすることで、腰下の囲われ感をやりたかったのです。たまたまハードウェアとしてダブルスクリーンを採用し、上と下に別れましたので、その間を狙って、上手くドライバーの腰下を囲っているようなグラフィックにして、上は水平に繋がっているイメージにしています。
その中でメーターはシンボリックに真ん中にあるというのがパフォーマンス表現です。パッセンジャーといろいろなものを共用しようと考えると横長スクリーンをドンとデザインしますが、それとは違う考え方です。
—-:最後にこのクルマは日本での展開はないのでしょうか。
中村:非常に多く聞かれる質問ですが、日産として事業構造改革計画日産ネクストの中でインフィニティをどう発展させていくかという議論はされており、現場ではメインのリージョンにフォーカスすることにしています。その上ですべての可能性は否定出来ないので、そこはお楽しみとしかいえませんが、現在は考えてはいません。