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【池原照雄の単眼複眼】大型新人の風格『ヤリスクロス』…初期受注は3万9000台に
◆登録車として久々のトップに立つ
トヨタ自動車のコンパクトカー『ヤリス』シリーズの国内販売が好調だ。既存のヤリスにSUVの『ヤリスクロス』、スポーツの『GRヤリス』が加わった9月の新車登録は2万2066台となり、軽自動車を含む全市場の車名別販売ランキングでトップに躍り出た。
とりわけ8月末に発売したヤリスクロスの出足が良く、トヨタに発売1か月の受注状況を問い合わせると驚きの数字となっていた。自動車販売団体が公表する車名別販売ランキングでは近年、ほぼ毎月、軽自動車ブランドがトップを占めてきた。とくに2019年まで3年連続で全市場での首位を守っているホンダの『N-BOX』が安定して強い。しかし、9月には常勝N-BOXを抑えてヤリスが1位となった。登録車のトップは2017年8月のトヨタの『アクア』以来、3年1か月ぶりという椿事なのだ。
だが、しばらくは椿事ではなくヤリスシリーズの快走が続く見通しとなってきた。ヤリスクロスの発売1か月の受注が3万9000台にも及んでいるからだ。トヨタのここ1年の新モデルにおける当初1か月の受注は、『カローラ』シリーズ(19年8月発売)が3万4000台、コンパクトSUVの『ライズ』(同年11月発売)が3万2000台、ヤリスのハッチバック(20年2月発売)が3万7000台、さらに上級SUVの『ハリアー』(同年6月発売)が4万5000台と、4モデルが3万台を突破している。
◆女性の注文が3割にも達した背景は?
このなかでヤリスクロスは、ハリアーには及ばないものの、幅広いユーザ層をもつカローラシリーズなどを上回った。ヤリスクロスのモデルサイクルを通じた月間販売目標は4100台なので、その9.5倍の注文が寄せられたことになる。目標倍率の数字では、ライズの8倍、ヤリスハッチバックの4.7倍、カローラの3倍をいずれも上回っており、トヨタの期待を上回る「大型新人」の登場ということになってきた。
ヤリスクロスの受注内容は、ハイブリッド車(HV)が7割、残り3割がガソリン車であり、値は張るもののリニアな加速性能や燃費性能などでリードするHVが人気を得ている。トヨタは「SUVならではの力強さや存在感を表現した洗練されたプロポーション。さらに、ユーティリティ性にこだわってコンパクトの常識を超えた広い荷室空間などが評価をいただいている」(広報部)と見る。
また、女性名義での購入が全体の3割程度を占め、同社のSUVでも高い比率だという。ヤリスシリーズの開発責任者である「トヨタコンパクトカーカンパニー」の末沢泰謙ZPチーフエンジニアは、開発に当たり4年ほど前に市場視察した欧州で、コンパクトSUVが女性にも人気だったことが強く印象に残ったという。「力強いが洗練されたデザインにより、街乗りでカフェに行ってもおしゃれ。また、運転席での目線が高くなるので運転しやすい」(末沢氏)というのが女性の支持理由だった。そうしたニーズを意識して投影したヤリスクロスは、まずは狙い通りの顧客獲得となっているようだ。
◆しばらくはヤリスの独走を支える存在に
昨年来、トヨタで発売後に高水準の受注を獲得しているモデルのライズ、ハリアー、そしてこのヤリスクロスは、いずれもここ数年で需要が急拡大してきたSUVだ。日本自動車販売協会連合会の統計によると、20年度上半期(4~9月)のSUVの新車登録台数(軽自動車除く)は約26万8000台(前年同期比9%増)となった。登録乗用車に占める比率は25%で、4台に1台がSUVなのだ。4年前の16年度上半期よりも台数は1.6倍に増え、乗用車に占める比率は倍増した。
高いドライビングポジションによる乗降のしやすさや視界の広さは、女性のみならず高齢ドライバーの支持も拡げている。国内市場でトップに立った9月のヤリスシリーズおよそ2万2000台のうち、ヤリスクロスはまだ3割を占めるにとどまっている。登録が本格化する10月以降、シリーズをけん引するモデルとして、しばらくヤリスの独走を支えることになろう。